今週のお題「読んでよかった・書いてよかった2024」に参戦!
館×密室×タイムループ
2024年刊行作品。作者の南海遊(みなみあそゔ)は1986年生まれの小説家。小説投稿サイトである「小説家になろう」出身。「小説家になろう」に投稿されていた、『傭兵と小説家』で星海社FICTIONS新人賞を受賞。2019年に書籍化され、こちらがデビュー作となっている。
表紙イラストは清原紘(きよはらひろ)によるもの。ヒロイン、リリィジュディス・エアの眼力が、なんとも印象的なイラストで、本作の成功要因のひとつにはこの表紙絵のインパクトもあったのではないかと思う。
本作は2024年のミステリランキングで高い評価を受けている。主な結果はこんな感じ。大健闘と言って良い。この作品で南海遊は一躍、知名度を上げたよね。
- 本格ミステリ・ベスト10:第5位
- ミステリが読みたい!:第11位
- このミステリーがすごい!:第12位
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
館モノ、密室殺人、ループモノ、これらの要素が大好きな方。19世紀イギリス(風)の世界観を楽しみたい方。『嵐が丘』『ジェーン・エア』を既読の方。死に戻り系のループ作品に興味がある方。超絶展開をとにかく堪能したい方におススメ!
あらすじ
没落貴族ブラッドベリ家の長男ヒースクリフは、母危篤の報を受け、三年振りに故郷である永劫館に帰って来た。しかし、母は既に他界しており、館にはその死を悼むべく、所縁のある親族、友人たちが集っていた。最後にやって来た正体不明の女リリィ。そしてその夜に惨劇は起こる。「死に戻り」の力を持つ道連れの魔女と共に、ヒースクリフは事件の謎に立ち向かうことになるのだが……。
ここからネタバレ
キャラクター一覧
最初に登場人物をまとめ。
- ヒースクリフ・ブラッドベリ:主人公。ブラッドベリ家の長男。三年前の事件をきっかけに家を出ていたが、久しぶりに実家に戻って来た
- コーデリア・ブラッドベリ:ブラッドベリ家の長女。主人公の妹。生まれつき体が弱く盲目、そして車いすなしでは移動が出来ない
- セオドア・ブラッドベリ:ブラッドベリ家前当主。主人公とコーディの父。故人
- シャーロット・ブラッドベリ:ブラッドベリ家の臨時当主。主人公とコーディの母。故人
- エドワード・ブラッドベリ:主人公の伯父。海運会社経営
- ジェファーソン・ブラッドベリ:エドワードの息子。主人公の従兄弟。コーディに好意を抱いている
- ケイン・バートウィー:ブラッドベリ家の執事長
- ゴードン・コンラッド:ブラッドベリ家の料理人
- ハンナ・フリンギム:ブラッドベリ家のメイド
- チェスタートン:牧師。骨董家具に目がない
- ベサニー・ウィリアムズ:シャーロットの親友
- ジャイロ・ダイス:名探偵
- リリィジュディス・エア:道連れの魔女。死に戻りの能力を持つ
本格ミステリ×ループもの
本作のキャッチコピーは
『館』x『密室』x『タイムループ』の三重奏(トリプル)本格ミステリ。
となっている。館と密室はセットで出てくることも多いが、これにタイムループが絡んでくると、俄然、物語は複雑になってくる。
主人公の名前「ヒースクリフ」の元ネタは、やはりエミリー・ブロンテの『嵐が丘』だろうか?本作の舞台は19世紀イギリス風(作中では架空の国)のとある地域。母の死をきっかけとして、久しぶりに故郷へ戻ったヒースクリフは、妹の死をめぐる密室殺人の謎に挑むことになる。
パートナーとなるのは、突如として現れた謎の女リリィジュディス・エア(通称リリィ)。「エア」という名前からは、シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エア』を意識したものかな?ちなみに『嵐が丘』も『ジェーン・エア』いずれも1847年に刊行されているので、作品イメージ的にはこの頃を想定しているのかも。
と、話が逸れた。リリィは外観年齢は17歳くらいだが、呪いにより歳を取ることがない。そして、彼女は死の瞬間、最後に目が合った人間と共に、死ぬ一日前にタイムループできる「道連れの魔女」である。ヒースクリフ同様に事件に巻き込まれたリリィは、彼をパートナーとして選択し、数限りない死に戻りを繰り返しながら、事件の謎に近づいていく。
死に戻る理由の妙味
リリィによって、勝手に死に戻りの道連れとされたヒースクリフは、当然彼女を信頼できない。どうやら彼女はまだすべての事情を明かしていない様子。といって、実はヒースクリフ自身にも隠していた裏の事情があってと、訳アリのカップルが死に戻りを繰り返す中で、次第に信頼を深めていく展開が良い。
歳を取ることができず、死ねたとしても死に戻ってしまう呪い。それはリリィの生涯を孤独で凄惨なものとしてきた。リリィは自らの呪いを解く鍵を、ヒースクリフの母親が握っていたと知りブラッドベリ家にやってきた。
死に戻り、ふたりそれぞれの視点で現実を観測することで呪いを解く。最初に読んだときは、わたしの脳では全く理解できなかったのだが、さすがに読者に配慮したのか、謎解きパートは図解入りとなっているので、がんばって何度も読めば納得できるようになっている。このアクロバティックな解法は素晴らしいな。本格ミステリ・ベスト10、第5位も納得の出来栄えなのであった。

