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『ふわふわの泉』野尻抱介 某超有名SF作品へのオマージュ

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タイトルはふわふわしているけど内容はハードSF

2001年刊行作品。最初の文庫版はライトノベルレーベルのファミ通文庫から登場。2002年星雲賞の日本長編部門を受賞。ハヤカワのベストSF2001国内部門の6位にランクインしている。作者の野尻抱介(のじりほうすけ)は1961年生まれのエスエフ作家。

その後、入手困難な時期が続いたが、2012年に復刊を果たし、ハヤカワ文庫版が登場した。表紙のテイストがさすがに全然違う(笑)。

ふわふわの泉

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

タイトルとは真逆にガチのハードエスエフ作品を読んでみたい方。読みやすくて、気軽に手を出せるハードエスエフタイプの作品を探していた方。ゼロ年代初期に書かれた野尻抱介作品を読んでみたい方。センスオブワンダーを感じたい方におススメ。

あらすじ

浜松西高校化学部部長、浅倉泉が実験中に発見した物質は画期的な性質を有していた。ダイヤモンドよりも硬く、空気よりも軽いその物体は「ふわふわ」と命名された。すかさず特許を出願。新会社の社長に就任した泉は「ふわふわ」を用いた一大プロジェクトを立て続けに実行していく。世界に革命的な変化を持たらしていく「ふわふわ」。遂に宇宙にまでその夢は広がっていく。

ここからネタバレ

美少女化学者が大活躍

ほのぼのテイストにハードなエスエフ的ガジェットを絶妙な匙加減でブレンドしてくるのが野尻抱介の得意なパターン。美少女化学者浅倉泉ちゃんの、それはちょっとトントン拍子に進みすぎなんじゃないの、ってなくらいの大活躍振りと、夢の新素材「ふわふわ」がもし実在したら?という化学的な考証に基づいたシミュレーションが、よさげな感じでミックスされていて面白い。

元ネタはアーサー・C・クラークの『楽園の泉』

ある程度エスエフ作品に親しんでいる方なら、わりとすぐに気が付くと思うのだが、本作はアーサー・C・クラークの往年の名作『楽園の泉』のオマージュ作品である。だいたいにして、主人公の名前「浅倉」が「アーサークラーク」のモジりになってるし。

後半に入っていきなり、宇宙意識体が登場してしまうあたり、尺の都合もあるのだろうが、急展開過ぎて読み手はビックリしてしまう。しかし、これもまた『楽園の泉』を意識したストーリー展開を意識していたが故なのであろう。

1巻で完結させる都合上なのか、物語の展開が異常に早いのはこの作品の難点。いかに「ふわふわ」が画期的な新素材とはいえ、これほどまでに短い期間で世界を席巻するまでに普及するとは考え難いんだよね。コンセプトは面白いので、もっと長い時間軸での技術展開を読んでみたかったので、少々残念。

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