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『銀盤カレイドスコープ Vol.1 ショート・プログラム』海原零 熱血スポ根フィギュア小説

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長らく毎週火曜日は西尾維新作品の感想をあげてきた。しかしさすがにそろそろネタ切れ気味なので、今週からは別作家のシリーズ作品感想をアップしていきたい。西尾作品の感想を楽しみにされていた方スミマセン。いずれまたやるので、ちょっと待ってね。

海原零のデビュー作

ということで、しばらくは海原零の『銀盤カレイドスコープ』シリーズ全9巻について語っていく。

第一巻の『銀盤カレイドスコープ Vol.1 ショート・プログラム:Road to dream』は2003年刊行。集英社主催の第二回スーパーダッシュ小説新人賞の大賞受賞作品であった。海原零にとってはデビュー作にあたる。

銀盤カレイドスコープ vol.1 ショート・プログラム:Road to dream (集英社スーパーダッシュ文庫)

あらすじ

桜野タズサは16歳。天賦の才と美貌に恵まれ、フィギュアスケート界でオリンピック代表の座を争うまでに成長を遂げていた。しかしタズサには本番に弱いという致命的な欠点が!そして生来の性格の悪さが災いしてマスコミと世論をも敵にしてしまう。そんな彼女に何故か幽霊が取り憑いてしまう。彼の名はピート。奇妙な同居生活が始まる中、代表選考会の日が近づいていた。

フィギュアスケート小説の先駆作品

本作はライトノベル界初?(以前にもあったら教えて)と思われる、フィギュアスケートの世界を舞台にした熱血スポ根小説である。2003年と言えば、2006年のトリノオリンピックで荒川静香が金メダルを取る前の時代である。

今でこそフィギュアスケートでの日本人勢の活躍は目覚ましく、世間の注目度も高い。しかし2003年当時は、決して恵まれた状況ではなかったはずである。そんな時代に少年系のライトノベルレーベルで、女性を主人公としたフィギュアスケート小説を書く。

これは書き手に相当なフィギュアスケート愛があって、なおかつ作品としても優れていなければ許されなかったであろう。『銀盤カレイドスコープ』は、それだけの熱量と面白さを兼ね備えた傑作シリーズなのである。

性格最悪の天上天下唯我独尊ヒロイン

主人公の桜野タズサは16歳。フィギュアスケートに関しては屈指の才能を誇るが、性格は最悪のヒロインである。

どれだけ性格悪いかと言うと……。五輪への切符を賭けた大切な選考会。怪我や病気で過去何度も五輪への切符を逃し続けてきたベテランのライバルが土壇場の演技で転倒。この瞬間に桜野タズサは大衆の面前でガッツポーズを決めてしまうのである。なんという天上天下唯我独尊ぶり。日本人離れした性格設定が最高すぎる。ヒール属性背負ったヒロイン設定がとにかく素晴らしい。キャラ立ちとしては最高レベルと言える。

愛情を感じるスケート競技描写

当時、フィギュアスケートはかつてに比べれば脚光を浴びるようになってきていた。とはいえ、まだまだマイナースポーツの域を出ない競技である。文字だけの表現で、どれだけフィギュアを分かり易く書けるかは大きな課題だった。

しかし本作ではフィギュアが全く判らないであろう読者に対して、あたかも目の前で滑っているかのように説得力のある「絵」を見事なまでに文章で表現出来ているのである。演技者の気迫と、観客の興奮がこちらにも伝わってくる程の熱さは、作者にフィギュアへの愛があるからこそ表現出来たのだろう。シリーズモノの第一巻としては完璧なスタートなのであった。

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