「銀盤カレイドスコープ」シリーズの六作目
2005年刊行作品。シリーズ六作目。今回はまたしても視点が変わって、かつてのライバルたちが主人公となる。複数の視点を取り入れながら、主人公タズサのキャラクタを立体的に描き出していこうという趣向である。
あらすじ
2009年。ニューヨークでの世界選手権。バンクーバー冬季五輪を翌年に控え、前哨戦とも言える戦いの場にトップスケーターたちが結集する。今や世界的なスケーターとなった桜野タズサだったが、彼女に対して激烈なライバル心を燃やす二人の女がいた。至藤響子とドミニク・ミラー。二人はそれぞれの想いを胸に秘め決戦の場に臨む。
至藤響子とドミニク・ミラーが主人公
かつてトリノへの切符を争った至藤響子と、海外でのライバル、犬猿の仲であるドミニク・ミラー。この二人が今回の主人公。二人の生い立ちから現在に至るまでを丁寧に描写。家庭的に恵まれない中で育った二人が、フィギュアを生きる拠り所として、至純な想いを研ぎ澄ませていく過程が感動的でとにかく泣けた。響子もドミニクも良い奴じゃん。
後半は2009年の世界選手権に
この世界だともう次の年はバンクーバー五輪なのである(当時)。しばらく寄り道が続いただが、ここからは世界のトップスケーターたちの戦いを見ることが出来るのだ。4巻、5巻が地味な展開だっただけに期待は高まる。
そして作者はその期待を裏切らない。主要スケーター6人のショートとフリー、それぞれの演技構成をちゃんと考えてしっかり描写しているこの作者は瞠目に値する。生半可な手間じゃなかっただろうと思うのだが、フィギュアスケート愛を感じずにはいられない凝った試みである。
桜野タズサの成長をライバルの目線から
二人の視点から、超絶的なスケーターになりつつある桜野タズサが描かれる。これほどまでにフィギュアに打ち込んできた響子とドミニクが、完璧な演技をしても今のタズサには勝てない。冷酷な形で見せつけられる天賦の才。敵地ニューヨークで二度の転倒。それにもめげることなく自分の演技をやり遂げたタズサの姿には鳥肌が立った。相変わらず盛り上げ方が巧い。こんなタズサでも、まるで歯が立たない女帝リアなんてラスボスまで用意されているんだから奥が深い。
次の第七巻はバンクーバー五輪編らしく、ここからが最終章になるようだ。響子とドミニクをここまで持ち上げたんだから、次は女帝リアにもっと頁数を割いて欲しいところ。
銀盤カレイドスコープ vol.6 ダブル・プログラム:A long, wrong time ago (集英社スーパーダッシュ文庫)
- 作者: 海原零
- 出版社/メーカー: 集英社
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