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『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』嵯峨景子 少女小説50年の歴史を振り返る

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少女小説50年の歴史を振り返る

2016年刊行。筆者の嵯峨景子は1979年生まれ。社会学、文化研究を専門とする研究者で、現在は明治学院大学の非常勤講師、及び文化学園大学文化ファッション研究機構の共同研究員を務めている方である。

コバルト文庫で辿る少女小説変遷史

近著としては、『氷室冴子とその時代』がある。

www.nununi.site

目次はこんな感じ

第1章 『小説ジュニア』から『Cobalt』へ
1 少女小説前史――戦前期から戦後概略
2 一九六〇年代のジュニア小説とその書き手たち
3 氷室冴子の登場と若手作家たちの活躍
4 『小説ジュニア』から『Cobalt』への転換
第2章 一九八〇年代と少女小説ブーム
1 『Cobalt』とコバルト文庫にみる少女小説家プロモーション
2 講談社X文庫ティーンズハートの創刊と読者層の拡張
3 拡大する少女小説マーケット
4 学園ラブコメからファンタジーへ コバルト文庫の新たな世代の書き手たち
第3章 ファンタジーの隆盛と多様化する九〇年代
1 ファンタジー小説の流行
2 少女小説レーベルのなかのBL
3 九〇年代の世相と少女小説の動向
4 九〇年代的コバルト読者共同体
第4章 二〇〇〇年代半ばまでの少女小説
1 角川ビーンズ文庫の創刊とその躍進
2 『マリア様がみてる』と『伯爵と妖精』 ゼロ年代前半のコバルト文庫とヒット作
3 少女小説における学園小説の衰退と読者層の変化
第5章 2006年から現在までの少女小説
1 二〇〇六年前後の少女小説レーベルの再編成
2 少女小説ジャンルのなかの「姫嫁」作品の増加
3 ネット発コンテンツと少女小説 ボカロ小説とウェブ小説の動向
4 ライト文芸と少女小説
5 少女小説の未来へ

コバルト文庫を軸に少女小説の歴史を振り返る

目次をみてワクワクしてきた方は立派な少女小説マニアだろう。

わたしは、コバルト文庫の各時代時代の主要作品をつまみ食いしてきた程度の人間で、コアなコバルト文庫ファンでも、熱心な少女小説愛好家というわけでもないのだが、それでも本作はとても興味深く読むことが出来た。

ものごとの歴史を知るには、重要事項だけを知ればいいというものではない。日本史や世界史の授業で言われた方も多いかもしれないが、歴史を知るには「流れ」を掴むことが肝要なのである。その作品はどうして世に出たのか。作者や版元の意向はどうだったのか。当時の読者ニーズはどんなものだったのか。

本書は「どうしてそうなったのか」という点にしっかり目を向けており、少女小説史の「流れ」を掴むことが出来る作品となっている。ライトノベルの世界も半世紀の歳月を経て、歴史研究の対象となっていくのかと思うと感慨無量である。これから少女小説の歴史を知りたいと思った方には、この先、長く道標となる一冊となるだろう。

コバルト文庫は終わるのか?

2019年の1月に衝撃的な情報が流れてきた。

anond.hatelabo.jp

nlab.itmedia.co.jp

『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』の中でも危惧されていたのだが、2010年代に入ってからのコバルト文庫は、多様化する読み手のニーズ受け止めきれなくなる。他社の競合レーベルの増加、ネット媒体の台頭によって優秀な執筆陣を揃えることも出来なくなっていく。

結果として、2016年に母艦となるべき雑誌『Cobalt』が休刊し、Web小説媒体に移行。そして2019年からはとうとう、紙の書籍の発行がなくなってしまう。現在のコバルト文庫は電子書籍のみの刊行となってしまっているのである。

皮肉なことに、かつてのコバルト文庫読者を想定して登場した、集英社オレンジ文庫は多くの人気作品を送り出しており、ライト文芸レーベルとしてすっかり定着した感がある。本来であればコバルト文庫から出ていたような作品(『後宮の烏』とか) までもがオレンジ文庫から刊行されるありさまで、出版社的にも力を入れていないことがありありと判ってしまう残念な状況なのである。

コバルト文庫はオレンジ文庫へと発展的解消を遂げた。と、考えればそのコンセプトはいまでも生きていると言えないこともないのだろうが、オレンジ文庫はティーンズ向けのレーベルとは言い難い。Webメディアとはいえ、辛うじてコバルト文庫の名が残っているのがせめてもの救いだが、果たして復活の可能性はあるのか?今後の動きに注目していきたいところである。

コバルト文庫で辿る少女小説変遷史

コバルト文庫で辿る少女小説変遷史

 

2020/4/6追記

「ダ・ヴィンチ」の2020年4月にて少女小説特集をやっていたので、掲載されていた47作をご紹介してみた。興味のある方はこちらもどうぞ。

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