ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『グランド・ミステリー』奥泉光 読みにくさも魅力の一つ

本ページはプロモーションが含まれています


芥川賞作家の書くミステリ作品

1998年刊行。「このミス1999」国内部門7位の作品である。

作者の奥泉光(おくいずみひかる)は1956年生まれ。1994年に『石の来歴』で芥川賞を受賞。出自としては文学畑の人のようだが、本作のようなミステリ作品を書いたかと思えば、『鳥類学者のファンタジア』のようなエスエフ作品を書いたりと、引き出しの多い作家であると言える。

2000年以降は、近畿大学文芸学部文学科の教授職を務めている。

グランド・ミステリー (KADOKAWA新文芸)

角川文庫版は2001年に登場。

その後、2013年に上下巻を一冊にまとめた合本版が角川文庫より再刊されている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

どこに連れていかれるかわからない、先の読めないミステリ体験をしてみたい方。昭和初期の日本を舞台としたミステリ作品を読んでみたい方。とってもクセの強い、特徴的な文体を楽しみたい方におススメ。

あらすじ

太平洋戦争の真珠湾攻撃時、空母蒼龍所属の九九式艦上爆撃機に搭乗した榊原大尉は攻撃に成功し無事帰還を果たすもその直後コクピット内で服毒死を遂げる。伊二十四潜水艦に乗り込み同じく真珠湾を体験した榊原の同窓生加多瀬は、その死に疑念を抱き独自の捜査を開始する。軍部は榊原の死を穏便に戦死として処理しようとするのだが、その背後には驚くべき真相が隠されていた。

ここからネタバレ

悪文も最後までやり遂げると味になる

まず最初に戸惑うのが文章の読みにくさだろう。一つ一つの文章が長い上に回りくどい。「**は@@なわけだが、といって??といったわけではなく、だが##は$$$で、決して%%というわけではない」みたいなテイストの文章が延々と続く。

500頁を越える大長編が万事この調子なので最初はテンポがつかめずに苦労させられた。悪文と言っても過言ではない癖の有りすぎる文体なのだが、それでも中盤を過ぎると慣れてくるから不思議である。かなりの部分、計算して書いているのだとは思う。

着地点が読めない楽しさ

メタ?メタなのこの話?と思わせておいて、いや入れ子構造?それともレイヤー構造なのか。虚実が入り乱れて、しだいにわけがわからなくなってくる。この物語の時間軸は二つあって、一部の登場人物たちはかつて起きた歴史の記憶を持ったまま、同じ時代を再度生きているのだ。

どちらの時間軸の話なのか、あえて判りにくくなるように書いてあるし、同一時間軸内での時間逆行もあるからよけい判りにくい。まあ、そこいらへんの混乱を楽しむべき作品なのだろう。てっきり架空戦記系の話になるのかと思っていたら、作者的にそっち方面の指向は無かったみたい。着地点の読めなさ加減は、本作の欠点であると同時に、魅力なのだと思われる。

キャラ読みに徹してみても面白い

主人公加多瀬の突出したヘタレぶり。未亡人志津子のクネクネとした感じ。漁色家にして冷徹無比、それでいて不思議な人徳を持つ彦坂。そしてヒロインのモテモテ範子ちゃんと、登場キャラクターは個性豊かに描かれていて、キャラ読みに徹してもそれなりに楽しめる。でもとにかく地の文が徹底して悪文なので、まずはこのハードルを越えるところから頑張らないといけないかな。

ミステリ作品のおススメはこちらから