ネコショカ

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『紅蓮館の殺人』阿津川辰海 謎解きが先か、火事から逃げるのが先か


阿津川辰海の三作目

2019年刊行作品。『名探偵は嘘をつかない』『星詠師の記憶』に続く、阿津川辰海(あつかわ たつみ)の三作目。

阿津川辰海は1994年生まれ。光文社の新人発掘プロジェクト「KAPPA-TWO(カッパツー)」出身の作家である。デビューした光文社からの作品が続いていたが、今回は初めての非光文社系作品ということになる。

紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

館モノ系の本格ミステリが好きな方、ちょっと凝った構成の本格ミステリを楽しみたい方、若手のミステリ作家を開拓したい方、探偵という生き方の業について考えてみたい方におススメ!

あらすじ

高校生の田所と葛城は、大ベテランのミステリ作家、財田雄山(たからだゆうざん)の屋敷、落日館を訪れる。しかし、建物の周囲を取り巻く山林では落雷による山火事が発生。救助を待つ彼らだったが、屋敷内では陰惨な事件が発生する。吊り天井による圧死死体は事故か殺人か?山火事による生命の危機が迫る中、決断の時が迫る。

↓ここからネタバレ。

新旧二人の探偵の配置

 『紅蓮館の殺人』の注目ポイントその1。

本作では二人の探偵役が配されている。高校生探偵の葛城輝義(かつらぎてるよし)と、かつて探偵であった飛鳥井光流(あすかいひかる)である。

葛城は相手の「嘘がわかる」特異体質を持ち、高校生らしい正義感のまま、ただひたすら真実を追い求めていく。一方の飛鳥井は、かつて自らの推理ミスでワトソン役の甘崎美登里(あまさきみどり)を死なせており、探偵としては現役を退いた人物である。

新旧二人の探偵が、それぞれの倫理観、目的の元に推理合戦を繰り広げていく構成はなかなかに面白い。

二つの危機、山火事と館内の殺人

 『紅蓮館の殺人』の注目ポイントその2。

落雷による山火事による、館に迫りくる火の手。そして、館内で発見された少女の死体。二つの危機が同時並行して進行することで緊迫感が高まる。山火事から逃れるための備えと、事件の解決どちらを優先すべきなのか。この二律背反的な設定が良いのである。

少女の死は事故なのか他殺なのか?本来であればしっかり見極めなくてはならないところ、まずは火災から助かる道を探すべきとあえて真相から目を逸らす。探偵役が二人いることで、より事件が複雑になっている。探偵同士が相手の思惑を読みながら、事態が推移していく展開は、読み手としてもテンションが高まるのであった。

過去と現在、二つの事件

過去に、飛鳥井が見逃した連続殺人事件の真犯人が、たまたま彼女の顧客となっている。なおかつ、山火事の危機が迫る落日館にたまたま逃げ込んでくる。これ、どれだけレアな偶然なんだよ!というツッコミもしたいところだが、これだけの偶然が重なったからこそ、犯人は事件を起こす気になったのだし、まあ、作劇上仕方ないところかな。

館での事件に、かつて飛鳥井が甘崎を失った事件が関係してくる。これは読む側としては想定内。ここで、新旧二人の探偵の価値観の違い、人生経験の違いから、思わぬ真相へと導いていく展開が上手い。

探偵という生き方の罪深さ

執拗なまでに真実を追い求め、結果として大切な存在を永久に失ってしまった飛鳥井。若き探偵葛城は終始、飛鳥井の掌中で踊らされていた感がある。飛鳥井に完膚なきまでに葛城のプライドは粉砕されてしまった。

ただ、飛鳥井は、真実を突き詰めるあまりに、さまざまなものを壊してしまう 探偵業の罪深さを露悪的に敢えて示して見せたのではないか。これからの葛城が、自分と同じような過ちを冒さないで済むよう、敢えて葛城の探偵としての生き方を否定して見せたのではないか。そんな風に思ってしまうのは考え過ぎだろうか。

「それでも僕はーー謎を解くことしか、出来ないんです」

本作は、悲鳴のような葛城の言葉で結ばれている。これだけの挫折を体験しても、葛城は探偵という生き方から逃れることは出来ないのであろう。ある意味で、この瞬間名探偵葛城輝義が真に誕生した瞬間であったのかもしれない。

紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

 

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