「創元ミステリ'90」の一作として
1991年刊行作品。作者の澤木喬(さわききょう)は1961年生まれのミステリ作家。単行本版の帯に「才媛」とあるので性別は女性かと思われる。「創元ミステリ'90」の一冊としての登場であった。
「創元ミステリ'90」は1990~1991年にかけて刊行された、東京創元社のミステリシリーズでラインナップは以下の通り。
- 北村薫『夜の蝉』
- 辻真先『合本・青春殺人事件』
- 日影丈吉『夕潮』
- 今邑彩『ブラディ・ローズ 薔薇の企み』
- 依井貴裕『記念樹(メモリアル・トゥリー)』
- 笠原卓『詐欺師の紋章(エンブレム)』
- 山崎純『死は走る者から襲う』
- 岩崎正吾『探偵の秋あるいは猥の悲劇』
- カトリーヌ・アルレー『狼の時刻(とき) 』
- 澤木喬『いざ言問はむ都鳥』
個人的は半分くらいしか読めていない。世の中的に、この顔ぶれの中では北村薫の『夜の蝉』が一番読まれているかな?
『いざ言問はむ都鳥』については、1997年に創元推理文庫版が登場している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
日常の謎系のミステリがお好きな方。
90年代の創元系ミステリの雰囲気に触れてみたい方におススメ!
あらすじ
分類学者、沢木敬が出会う不思議な事件の数々。どんな植物でもたちどころにその種別を言い当てることが出来る彼が、唯一見分けることが出来なかった謎の植物の正体は。無人駅で子供料金の切符を大量に買い続ける男の真意。平凡なボヤ騒ぎの背後に潜む暗澹たる真相。咲くはずの無いサザンカの秘密。四季折々の四つの謎に沢木が挑む。
澤木喬、唯一の単著作品
日常の謎をテーマとした連作短編モノとしてはかなり初期に出た部類だろうか。植物についての蘊蓄が相当な分量を占めているので、てっきりそちらが本業の人なのかと思っていたがこの作者は法学部卒であるらしい。
デビュー作は短編作品であったようだが、単著としては本作が唯一の澤木喬作品である。その後は本業が忙しかったのか短編が数作あるのみである。
ここからネタバレ
柔らかな雰囲気を裏切る重い幕切れ
植物ネタペダントリが、ややもすると過剰に思えるのと、主人公である沢木クンの視点がふらふらしているのが気持ち悪く、リーダビリティはあまり高いとは言えない。が、全編に漂う柔らかな雰囲気と、その割にはダークな結末は買い。この人、これ一作で以後書いていないようなのだが、どうなっちゃったんだろうね。