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『人獣細工』小林泰三 パッチワーク・ガールの狂おしいまでの絶望

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小林泰三の第二作

1997年刊行作品。作者の小林泰三(こばやしやすみ)は1962年生まれのホラー、エスエフ、ミステリ作家。がんのために2020年に58歳の若さで他界されている。

1995年に第二回ホラー小説大賞短編賞を『玩具修理者』で受賞し、作家としてのデビューを果たす。本日ご紹介する『人獣細工』は、小林泰三の第二作品集となる。全作書き下ろし。

人獣細工

人獣細工

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文庫版は1999年に角川ホラー文庫から登場している。 

2014年にKindle版も出ているけど、表紙デザインが変更されている?

どうやら、小林泰三の角川ホラー文庫系の作品は、電子書籍化に際して、皆、このようなシンプルテイストのカバーになっているようだ。カバーデザイナとの版権上の問題だろうか?

とか、書いていたら、角川ホラー文庫の新装文庫版が2023年4月に出ていた!

人獣細工 (角川ホラー文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

人間の狂気について考えてみたい方。グロ耐性、キモ耐性「あり」の方。独特の世界観を持ったホラー作品に興味がある方。角川ホラー文庫系の作品がお好きな方。最初期の小林泰三作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

パッチワーク・ガール。継ぎはぎ娘。それが彼女だ。実の父の狂気によって人間ならざるものと次々と臓器を交換されていく彼女。無数の傷跡に縫い込められた狂おしいまでの絶望感を描いた表題作を始め、少年の日の吸血鬼との奇妙な戦いを描いた「吸血狩り」。とある本をめぐって展開する怖ろしい呪いの連鎖を描いた「本」の二編を収録した怪奇短編集。

以下、各編ごとにコメント。

ここからネタバレ

人獣細工

表題作がやはり一番いい。短編なので当然ネタが命ではあるわけなのだが、細かなディティールの書き込みによって全編に醸し出されるただならぬ不安感が見事。必要な情報を与えられていないというのは常に不安を誘うわけで、ホラー作品たるものいかにネタを割ることなく、情報を小出しにしながら読者ラストへ引っ張っていけるが大事なわけで、その点この作者は巧いと思う。

吸血狩り

あれ?ひょっとしたらこれって本筋とは全然違う、もっと日常的なレベルの事件だったんじゃないの?というブラックな疑問が最後まで残るのが面白い。あえて、解釈の余地を残したところは、評価の別れるところかもしれないが、わたし的には好みの終わらせかただった。

この作品では登場文物たちの使う関西弁が、最初のうちは事件の緊迫感を著しく削ぐのである。しかし、これはこれで読み進めていくうちに、却って怖くなっていくから不思議である。読み手は知らず知らずのうちに、危険な領域に入り込んでしまい、ゾッとさせられてしまうのだ。怖えー。

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