現役書店員による書評集
2020年刊行。筆者の徳永圭子(とくながけいこ)は1974年生まれの現役書店員。こちらの記事を読む限りでは丸善の方である様子。「本屋大賞、地域イベントのブックオカなどの本のイベントに実行委員として携わる」とあるので、いわゆるカリスマ店員さんということになるのかな。
徳永圭子は本業の傍ら、新聞、雑誌などで書評、コラムを執筆している。
『暗がりで本を読む』は「本の雑誌」に掲載された原稿を中心に、書下ろしを加えて上梓したもの。本書が初書籍となる。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
新しいジャンルを開拓したい、魅力的な本に出会いたい、普段読まない分野の本にも挑戦してみたい!と思う方。外国文学、一般小説、エッセイ関連でおススメの作品を知りたい方。現役書店員が書いたブックガイドを読んでみたい方におススメ!
内容はこんな感じ
書店の本棚で、売れた本の隙間に思いを馳せる。大切な人にもらった本を枕元に置いて眠る。新刊書ならではの生もののような手触り。本ははかりきれないものを包んでやってくる。読むことの楽しさ。難しさ。一般小説、文学書、エッセイ、ただひたすらに読み続けて来た、現役書店員が綴る、珠玉の書評集。
70冊以上の書籍を紹介!魅惑のブックエッセイ
『暗がりで本を読む』では約70冊の書籍を、筆者独自の視点で紹介していく。1冊あたりの記事数は800文字~1,200文字程度。雑誌掲載原稿だから、文字数は厳密に定められている。この文字数で作品の紹介を行うのは、書いてみるとわかるが結構難しい。言いたいことを絞って、表現を削って削ってようやく形になるかという感じ。
それでいて文字数を削ぎ落し過ぎると、今度は単なる内容紹介に終始して、紹介者の色が消えてしまうのも難しい。
その点、本書は作品本来の魅力に言及しながらも、筆者独自の色もしっかり出せている。さすがは本を売るプロの仕事である。
非エンターテイメント系本が中心
本書では、児童文学、外国文学(新潮クレスト系多め)、エッセイ、国内の一般小説等を主として紹介している。「本屋大賞」に登場するようなメジャーな、エンタテイメント系小説はほとんど扱っていない。
エンタメ系の小説を主として読んでいるわたしとしては、その点でとても新鮮なブックエッセイであった。恥ずかしながら70冊中、既読はゼロ。著者名すら初めて知る書籍も多く、自分の視野の狭さを改めて感じた次第である。新たに読みたくなる本がザクザク発掘出来て嬉しい。
他人の読書感想を読むこと
自分以外の人間が書いた読書感想文を読む楽しみはいくつかある。わたしは以下の四点をいつも気にして読むようにしている。
- 未知の本に出会える
- 自分でも気づかなった新しい視点に気付ける
- 作品の魅力を特徴的な表現で的確に切り取る言語化能力
- 作品の余韻を残した感想文の締めくくり方
1は自分の視野や守備範囲を広げる意味で心がけている点。自分とは全く異なる趣味・嗜好を持つ方のレビューを読んだ方が、世界は広がっていくように思える。
2は逆に自分が既読の本に対して。思いもよらぬ解釈を知りたい。こんな楽しみ方もあるよという「気づき」を得たいという欲求である。
3についても既読本が対象になるかな。作品の魅力を的確に文書で表現するのは本当に難しい。自分の中にあるふわふわとした形にならない思いを、目に見える言葉にして表すのは至難の業なのである。
4つめは、感想文の終わり方だ。作品の余韻を残しつつ、評者自身の個性を滲ませて、うまくレビューを終えることが出来たらベスト。
本書を読んでいてよいなと思ったのは、4の部分。本文中では作品の魅力を紹介しているのだが、締める時は自分の目線や感情に戻ってくる。この落とし方は上手い。今度自分でも試してみよう。
気になった本はこちら
多くの作品が紹介されているが、とりわけわたしの琴線に触れたのが以下の作品である。機会あれば是非読んでいきたい。
『戦争中の暮らしの記録』は、暮らしの手帳がまとめた、戦時中の体験レポート。成立年代的に、生々しい体験談が多数寄せられていそう。
『土に贖う』は河崎秋子の新田次郎文学賞受賞作。土に分け入って働く人たちの物語。
『べつの言葉で』は、『停電の夜に』『低地』で知られる、インド系アメリカ人ジュンパ・ラヒリのエッセイ集。
『パンと野いちご』は、セルビア在住の詩人、翻訳家、山崎佳代子のエッセイ集。ユーゴ内戦時の食べ物の記憶を綴る。
『幼年 水の町』は詩人、小説家、小池昌代のエッセイ&掌編幻想小説集。幼年期への追憶を語る。
『ワインズバーグ、オハイオ』はアメリカ人作家 シャーウッド・アンダーソンの著作。繁栄から取り残されようとしている人々の悲哀を描く。
『曇天記』は芥川賞受賞作家にして、フランス文学者、堀江敏幸の著作。「曇天」にまつわる100編の掌編を収録。
『雨のことば辞典』は日本古来の雨のことばだけを集めた用語集。倉嶋厚、原田稔両名の編著。収録語数はなんと1,200語。語彙豊かになれそうなので読んでみたい。
『すべての見えない光』はアメリカ人作家アンソニー・ドーアによるピュリツァー賞受賞作。第二次大戦下、若きドイツ兵と、盲目の少女の交流を描く。
関連リンク
最後に、筆者徳永圭子に関しての関連ページのご紹介。