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『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『まひるの月を追いかけて』恩田陸の描く旅の情景が素晴らしい

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恩田陸の紀行モノ

2003年刊行作品。文藝春秋の小説誌「オール讀物」に2001年7月号から2002年8月号にかけて6回に渡り掲載された作品を単行本化したもの。恩田陸22作目の作品。

文春文庫版は2007年に刊行されている。解説は佐野史郎が担当。

まひるの月を追いかけて (文春文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

旅行、旅、非日常の世界で繰り広げられる物語を堪能したい方。奈良が好き!古都、奈良に行ってみたいと思っている方。複雑な人間関係を描いた作品を読んでみたい方。テンション低めのヒロインが好きな方におススメ。

あらすじ

異母兄、研吾の恋人、君原優佳利の切り出した用件は意外なものだった。失踪した研吾の行方を共に捜して欲しいというのだ。結婚するものとばかり思っていた二人に何があったのか。優佳利の求めに応じて奈良を訪れた静。日常の時空から乖離した古都で、静は思いも寄らぬ事態に巻き込まれていく。

ココからネタバレ

旅の始まりに感じるザラザラした憂鬱と幸福

『三月は深き紅の淵を』の1エピソード「出雲夜想曲」『黒と茶の幻想』の流れを汲む紀行モノだ。『月の裏側』やかなり苦しいけど『不安な童話』も無理矢理範疇に入れられるかな。日常の時間とは異なる旅時間のずれ、異邦人的な心持ち、この不思議な感覚を描かせるとやはり巧い。「旅の始まりに感じるザラザラした憂鬱と幸福」とは言い得て至言だと思う。凡人がうまく言えない概念を、目に見える言葉にして表現する能力はいつもながら秀逸。恩田陸の描く旅の情景は本当にその場所に自分も立ってみたくなる。

各章の引きが強烈

雑誌連載作品ということもあるのだろうが、毎回毎回のラストの引きが凄い。全盛期の少年ジャンプ作品並だ。地味な主人公が視点の静かなトーンで推移しながらも、二転三転するジェットコースターストーリーというのはミスマッチして面白いのだが、これは少々やりすぎの感もあって、ややもすると話を安っぽく見せてしまっているのは勿体ない。なんだか火サスみたい。妙子の死はさすがにやりすぎだと思う。

想いの力が呪縛する

雰囲気はいつもにも増して良し。変転し続けるストーリー展開も面白い。低温体質キャラの主人公静も相当好みの性格。で、ありながら★4個つけられないのは男性登場人物、というか研吾のキャラが気にくわないせいね。こういう困った君は周囲に迷惑かけずに静かに消えていって欲しい。想いの力は人の心を呪縛し続ける。強く相手を想いながらも、誰も幸せになれない。暗澹たる結末そのものはわりと好みの終わり方。このやりきれなさは奈良らしくていい(根拠の無い決めつけ)のだけど。

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