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『黙過の代償』森山赳志 第33回メフィスト賞受賞作

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森山赳志、唯一の作品

2005年刊行作品。タイトルは「もっかのだいしょう」と読む。第33回のメフィスト賞受賞作品である。メフィスト賞には珍しい国際謀略モノだ。作者の森山赳志(もりやまたけし)は1971年生まれ。本作がデビュー作だが、残念ながらこれ以降作品を世に送り出せていない。受賞作のみで終わってしまったメフィスト賞作家の一人である。

黙過の代償 (講談社ノベルス)

本作は日韓同時発売されており、韓国でのタイトルは『누가 호랑이 꼬리를 밟았나 』(誰が虎の尾を踏んだのか)であった。

なお、文庫化はされていない。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

メフィスト賞としてはちょっと珍しい、国際謀略モノのミステリ作品を読んでみたい方。日本と韓国の関係性について、ミステリを通じて知ってみたいと思う方。メフィスト賞作品なら、とにかく読まねば!と考えている方におススメ。

あらすじ

大学生の秋月昌平は瀕死の男から貸金庫の鍵を託される。「コレをダイトウリョウに渡して欲しい」そんな言葉を残して逝った男の狙いは何だったのか。最後の願いを聞き届けるべく活動を開始した昌平は、在日の暴力団員蔡翼傑に出会う。自らの預かりらぬところで、日韓の歴史の闇にうごめく謀略に巻き込まれていく昌平。事件の思わぬ真相とは!?

ここからネタバレ

展開がちょっと(かなり)強引

今にも死にそうな男に頼まれたからって、普通の大学生が「よっしゃ!大統領に会うぞ!」って、いきなり思ってしまうところがまず無理矢理過ぎる。そしてなにかあったらこの男を頼れ!って紹介されるのが在日のヤクザなのだが、これまた恐れることもなくホイホイ会いに行っちゃう主人公の性格が超絶ポジティブ過ぎる。

ちなみに主人公は韓国語学科の学生で、テコンドーの達人だったりする。なんだか、めちゃくちゃご都合主義のような気がするのだけど。

歴史問題への深入りは避けている印象

事件の真相はわりと早くに明らかになってしまい、終盤はグダグダ。日韓ネタなので過去の歴史事情を反映した会話が頻出するが、あまり深入りはせずにうまくかわしたイメージ。

でも、この話のキモとなっている「大統領の秘密」が明らかになったらこの程度の騒ぎではすまないのでは?このネタがあちらで判明したら確実に大暴動が起こりそうである。本人ですら知らなかったならともかく、知っていて隠していた時点でアウトだと思う。

文章がいろいろおかしい

最後に、編集の人、相手は新人なんだから最低限のチェックはしてあげないといかんだろう。この話では韓国の大統領は李泰永という名前なのだが、一つのパラグラフの中で地の文の主語が「大統領」「泰永」の二つが混在している。挙げ句の果てに突然大統領が「わたし」とか一人称で語りはじめたりして、いろいろと残念。この点、もう少し編集サイドが頑張ってあげるべきところだったのでは?

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