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『夏草の記憶』トマス・H・クック、屈指のビターエンド作品


2000年版「このミス」海外部門で第三位

1999年刊行。トマス・H・クックは1947年生まれのアメリカ人作家。本作が12作目。オリジナルの米国版1995年の刊行。原題は「Breakheart Hill」である。2000年版「このミス」海外部門で第三位に入った作品。

夏草の記憶 (文春文庫)

本作は1960年代、アメリカ南部の田舎町を舞台とした回想型の青春ミステリだ。30年後、真相に気付いてしまった主人公が当時の回想を交えながら、事件が起きたゼロ時間へと近づいていく構成になっている。クックお得意の追憶の物語である。

あらすじ

1960年代初頭。アメリカ南部の田舎町チョクトー。優等生だが内気で奥手のベン・ウェイドは北部からの転校生ケリー・トロイに夢中になる。勝ち気で美人。正義感が強くて聡明なケリーは瞬く間に学園の人気者となりベンには手の届かない存在となってしまう……。しかし惨劇は起きた。輝かしい人生を送る筈だった彼女の未来を奪ったのは誰なのか。追憶の中から蘇る事件の真相。

十代ならではの恋愛シーンが切ない

魅力的な転校生のハートを射止めようと悪戦苦闘する少年時代の主人公がとにかく良く書けている。頭はいいんだけど、でも全然モテない田舎の優等生クン。高校生年代ならではの、純粋な恋愛感情が瑞々しく描かれてしばしばいたたまれない気持ちにさせられた。初デート後の高揚感とか、触れようとしてさりげなくかわされたときの絶望感とか、こういうのあったよなあ。ヒロインの運命が最初から判っているだけにこのときめきも切ない。

群像劇として秀逸

主人公の心理描写が巧みで、ヒロインも実に魅力的に描かれているのだが、この作者、主人公を取り巻く同級生たちについても描写に相当な手間をかけている。最初は周辺人物の描写に頁数を割き過ぎなのではとも思ったが、この部分が実はしっかり伏線にもなっていて読み終わってから巧いなと感心させられた。

青春を謳歌していた彼らがその後どのような人生を送ったのか、30年の歳月が人間をどのように変えてしまったのかが容赦なく描かれていて、誰にでも時間だけは等しく平等に訪れるものだという残酷な事実を改めて思い知らされるのである。

圧倒的なヒロインの存在感と衝撃の結末

現在と過去を行きつ戻りつしながら、ゆっくりと事件の核心へと物語は進んでいく。失われた青春の象徴としてのケリーの存在感は圧倒的で、それだけに現在での彼女の不在という事実が突きつけてくる喪失感は計り知れないものがあった。

あまりに主人公の悔恨の思いが強いので、ある程度結末は予想が出来ていて、17歳で想い人を死なせてしまうのはトラウマだよなあ、30年かけてベンは罰されてきたんだなあ、なんてつらつらと考えていたのだが、なんとラスト3ページで信じがたい衝撃が訪れる。

これは酷い。あまりに惨すぎる。こんな壮絶なオチが待っていようとは想像もしていなかった。読者は最後まで騙されているわけだが緒、当然主人公は「その事実」を知っているわけで、罪の自覚があったとはいえよくこの状況に直面する気になったな。久しぶりに背筋がゾッとした。トマス・H・クック恐るべし。わたし的には、クック作品のベストが本作で決まりである。

夏草の記憶 (文春文庫)

夏草の記憶 (文春文庫)

 

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