似鳥鶏が描く、夏のロードノベル
2022年刊行作品。作者の似鳥鶏(にたどりけい)は1981年生まれのミステリ作家。デビュー以来、ほぼ毎年のように複数作品を発表している多作家として知られる。
本作『夏休みの空欄探し』はポプラ社の文芸PR誌「季刊asta」のVol.1~Vol.3にかけて連載されていた「夏休みの3301」を改題のうえ、加筆修正して単行本化したもの。
カバー挿画は爽々(そうそう)が担当している。カバーに描かれているのは向かって右から、立原雨音、成田清春、立原七輝、成田頼伸になるかな。
ポプラ文庫版は2024年に刊行。単行本版の後書きに加えて、文庫用のあとがきも書き足されている。表紙絵がガラッと変わってしまってちょっと切ない。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
暗号解読、謎解きが好き。本気でクイズを解いてみたい。雑学知識には自信がある!という方。魅力的な異性と過ごした特別な夏の物語を読んでみたい方。陰キャと陽キャがやむをえず一緒に頑張る!系のお話が好きな方におススメ。
あらすじ
高校二年生でクイズマニアの成田頼伸は、謎解きにハマる美人姉妹に声をかけられ、彼女たちに協力することになる。クラスの人気者、成田清春も仲間に加わり、四人の男女の夏休みが始まる。次から次へと登場する不可思議な問題。問題を解かせる、出題者の意図は何なのか。そして彼らはどこに導かれていくのか。
ここからネタバレ
陰キャ×陽キャの友情モノ
主人公の成田頼伸(なりたらいしん、ライ)は、会員が2人しかいないクイズ研究会の会長。クイズ問題には滅法強いが、クラスでは目立たない地味なキャラクターだ。
一方、スクールカーストの最上位に位置するクラスの人気者、成田清春(なりたきよはる、キヨ)はダンス同好会に所属。社交的で誰とでも打ち解けることが出来る性格だ。
姓が同じ成田であるだけに、頼伸はクラス内では「じゃない方の成田」呼ばわりされる始末。陰キャと陽キャ。水と油。本来であれば交わることのない二人なのだけど、とある事情から夏休みの間だけ行動を共にすることになる。
とある事情とは、もちろん女の子絡み。立原雨音(たちはらあまね)と、立原七輝(たちはらななき)。魅力的な美人姉妹に惹かれた彼らは、彼女たちと夏を共に過ごすために手を組む。
女の子と何を喋っていいのかわからない。連絡先の交換の仕方がわからない。格好いい服の選び方なんてわかるはずもない。陰キャ男子高生の頼伸が、ちょっと背伸びをして、清春の助けを借りて少しづつステップアップしていく姿が微笑ましい。一見すると、順風満帆で何事も上手くいっているかに見える陽キャの清春にも悩みはある。普段であったら、絶対に絡むことのない凸凹コンビが、お互いのコンプレックスを埋めながら、次第に友情を育んでいく展開が良い。
謎解き×ロードノベル、美人姉妹と過ごす特別な夏
『夏休みの空欄探し』では、二人の成田くん&立原姉妹の四人組が、謎の人物板橋省造(いたばししょうぞう)が遺したとされる数々のクイズ問題を解いていく。それぞれの問題は暗号になっていて、解読できれば次の問題の隠し場所が分かる趣向となっている。
本作で四人組が訪れたスポットは以下の通り。
- 武蔵国分寺公園
- 東山魁夷記念館
- 葛西海浜公園
- 伊豆大島三原山
- 栗東市八幡宮
- 東京ディズニーリゾート
- 西武線国分寺駅コインロッカー
伊豆大島に、滋賀県の栗東市まで行くのだから相当な大遠征だ。でも、意中の異性と一緒に出掛けるなら、こんなに楽しいことはないよね。しかも、立原姉妹の妹の方、立原七輝は大のクイズマニアで、頼伸との相性は抜群っぽい。LINEを送ればすぐ反応があるし、通話だって向こうからかけてくる。おとなしそうなのに、意外にも向こうの方からグイグイ来る。これで純朴な男子高生に舞い上がるなと言うのが無理というもの。
着ていく服がみすぼらしいのではないか。うまく会話に入っていけない疎外感。陰キャ男子高生のコンプレックスを、この時期にしか抱けないであろう恋する力で乗り越えていく(しかも、清春が大事な部分ではサポートしてくれる)。この初々しい感覚が、オッサン読者としてはムズムズしてくるのだけど、こういう感情、昔はあったよなあと懐かしい気持ちにさせられる。
うーん、この終わり方は……
物語の中盤まで過ぎると、ぶっちゃけ話の構造は見えてくると思う。立原姉妹が見るからに怪しいし、行く先々で、きちんと問題が見つかるのも不自然に過ぎる。神社や、ディズニーの施設に問題が貼り付けられていたら、誰かに見つかって撤去されていてもおかしくない。姉妹の自作自演なのは、読む側に想像がついてくる。果たしてその理由は何なのか?
最後の謎を解いた時、雨音から真相が語られる。正直なところ、ここで“難病もの”的な展開が持ち出されるとは思ってもいなかったので、個人的にはかなりのテンションダウン。展開がベタすぎるのでは?それくらいの強い動機がないと、今回のような手の込んだ仕掛けをする必要性が生じない。というのはわかるのだけど……。
“難病もの”は読む側にもそれなりの覚悟が強いられると思うのだ。最後に取ってつけられたように実は~と言われても、準備が出来ていないだけに受け止めきれない。陰キャの頼伸があれだけ頑張ったのだから、最後まで幸せになって欲しいと思うのが人情だと思うなあ。