梨木香歩はこの作品から始まった
1994年作品。最初の単行本版は楡出版より刊行されている。
続いて、小学館による新装版が1996年に登場。
その後、2002年に新潮文庫版が刊行されている。現在、多く読まれているのはこの版であろう。こちらは続編である「渡りの一日」を併載している。
作者の梨木香歩は1959年生まれ。デビュー作である本作で、日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、小学館文学賞をそれぞれ受賞している。
あらすじ
学校に馴染めずに登校拒否に陥っていた女子中学生まいは両親の薦めで母の実家である祖母の元で暮らすことになる。自らを西の魔女と称する祖母の元で、まいの新しい生活が始まる。自然にあふれた環境の中で、見習い魔女として平穏だが刺激に満ちた日々を送るうちに、いつしかまいの心は癒されていく。
都会の少女と魔女の祖母
主人公の祖母はイギリス人で。そして主人公の母親がイギリス人と日本人のハーフ。従って主人公はイギリス人の血を1/4持つクォーターという設定である。
都会で育った主人公が、生きる自信を失い傷ついて田舎住まいをすることになる。そんな彼女が魔女を称する祖母に導かれ、豊かな自然環境の中でいつしか生きる力を取り戻していく物語だ。
田園生活の描写が素晴らしい
短い作品でありながら、田園生活のエッセンスがぎっちり詰まっていて読んでいて楽しい。イギリス人である祖母のキャラクター造形が秀逸で、張り巡らした伏線共々、ラストのサプライズにきれいにつながってお見事。主人公のキャラクターもなんとも清々しい。刊行以来、長く愛されてきているのも納得のクオリティなのであった。
映画版もある
本作は2008年に長崎俊一の監督により映画化されている。やはりリアルに外国人が「おばあちゃん」を演じると雰囲気が出てくる。ロケ地は山梨県の清里高原。こちらもなかなかに「魔女の家」感が醸し出されていていい感じ。作品の世界観を出来る限り尊重して造られた映像化で、プロの仕事だなと感心させられた。