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『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 小説アンソロジー』ファンなら買いの一冊

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ワタモテ初の小説アンソロジー

 2019年刊行作品。人気マンガ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』の小説アンソロジーである。執筆陣は、まず原作の谷川ニコ自身が初の小説執筆に挑戦。加えて、超ベテラン作家の辻真先、更にミステリ作家の、青崎有吾、相沢沙呼、円居晩の三名が参加している。

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 小説アンソロジー (星海社FICTIONS)

ワタモテの魅力

『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(以後、ワタモテ)はスクウェア・エニックスのウェブコミック配信サイト『ガンガンONLINE』にて、2011年から連載されているマンガ作品。作者は谷川ニコ。

www.ganganonline.com

2013年にはアニメ化もされたが、この作品のおかしなところはこの後である。

通常マンガ作品はアニメ化を売り上げのピークとしてその後は、ゆるやかに販売数を落としていくものだが、本作ではそのパターンは当てはまらない。アニメ化が終わって五年を経過して、かつてよりも人気が高まっているのである。 

本作の主人公、黒木智子は非モテのコミュ障で陰キャ、筋金入りのオタクで、異性にモテないどころか友人すら居らず、デフォルトがボッチ。そんな彼女の孤独と自虐的な毎日を愛でる作品だった(過去形)。

あまりに自虐の濃度が濃すぎるので、当時の読者だったわたしは、自身の過去がフラッシュバックしていたたまれなくなってしまい、6巻あたりで読むのを辞めてしまったほどである。

そんなワタモテに転機が訪れたのは8巻の修学旅行編からである。

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!(8) (ガンガンコミックスONLINE)

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!(8) (ガンガンコミックスONLINE)

  • 作者:谷川 ニコ
  • 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
  • 発売日: 2015/08/22
  • メディア: コミック
 

智子は修学旅行で無理やり班長にされ、クラスの「余りもの組」たちと行動を共にすることで謎の女子間友情フラグが立つ。ここからのワタモテは、智子とクラスメイト女子たちの微百合的な交流を愛でる作品へと一大変貌を遂げていくのである。

7巻以前のワタモテしか知らなかった人間にとっては、まったく別の作品になっているため、衝撃は否めないのだが、智子の不思議な魅力に惹かれて、次々と彼女を取り囲む輪が広がっていく展開がメチャメチャ面白く、この方針転換は結果的に大成功であった。

あらすじ

夏休みのとある一日、受験勉強を終えた智子はクラスメイトの小宮山琴美に会う(モテないし夏休みのとある一日)。小説家になった智子が見た奇妙な夢のお話(私がウレないのはどう考えても読者が悪い!)。岡田茜視点での日常を描いた(前髪は空を向いている)。青春なんて運しだい。運よく高校デビュー出来た内向的な性格の少女の物語(夏帆)。田村ゆりのラブホ疑惑!その真相は?(モテないしラブホに行く)。五編の作品を収録したアンソロジー。

以下、作品ごとにコメント。

モテないし夏休みのとある一日:谷川ニコ

マンガ原作者谷川ニコ、まさかの小説家デビュー。無理やり書かされている感が強いけど、ファンとしては嬉しい話である。

わたし的には、単独キャラとしては最愛の「こみなんとか」さんが登場するので、それだけで大歓喜。周囲との摩擦をものともせず(というか気にしていない)、推しに突撃できる彼女はオタの鑑。智子とのつかず離れずのドライな関係性も気に入っている。

「こみなんとか」さんは、あり得たかもしれない智子の発展系の一つとも言え、今後も目が離せないところである。

私がウレないのはどう考えても読者が悪い!:辻真先

辻真先は1932年生まれなので、なんと御年87歳!ワタモテ読んでるのも凄いけど、何故執筆陣に入れてしまったか?>星海社。話題性は取れたのかもしれないけど、内容的には正直微妙。この類の小説アンソロのお約束を華麗にスルーして、書きたいことを書いたなという印象。お疲れ様でした。

前髪は空を向いている:青崎有吾

青崎有吾は1991年生まれ。2012年の『体育館の殺人』で鮎川賞を受賞してデビュー。

今回のアンソロ作品は、岡田茜(凸、あーちゃん)視点でのお話。本編ではあまり描かれない、他キャラクターで作品世界を俯瞰しなおしたアンソロのお手本のような作品。

岡田茜は何事もズバズバ言うタイプで正義感も強い。陽キャでスクールカーストの上位層。そんな彼女の視点から、対照的な個性を持つ黒木智子の姿を描く。

本編ではどうしてもメインでは取り上げにくい、サブキャラ同士の交流を描いてくれているのが嬉しい。吉田さんとのやりとりが好き。普段つるんでないんだけど、何故か妙にハマるクラスメイトっているよね。

夏帆:相沢沙呼

相沢沙呼は1983年生まれ。今年は『medium 霊媒探偵城塚翡翠』でこのミス、本格ミステリ大賞を制覇。大ブレイクした。

ごめん、薄いファンなので夏帆って誰なのかわからなかった。この人らしい。加藤さんの友達として出てくる人ね。

本来は内向的な性格で、一年時に加藤明日香と友人になったことで、自信を持って振る舞えるようになり、高校デビューを成し遂げたキャラクター(とされている)。

同人誌やネット媒体での二次創作にありそうなお話で、原作にないオリジナルの要素が強い。独自の解釈が入る分、評価も別れるところかな。

青春は運しだい。人間の立ち位置って、どんな人間がまわりに居るかで全然変わってくる。孤独な学園生活を送る黒木智子の姿は、もしかしたら自分であったのかもしれない。でも、生まれつきの性格も少しずつ変わっていくことできる。そんな希望を残したラストの余韻が良い感じ。

モテないしラブホに行く:円居晩

円居晩は1983年生まれ。2009年の講談社BOX『丸太町ルヴォワール』がデビュー作。

あとがきで本人も書いているけど、「原作でありそうな話」を作ってみましたという一編。カップリング的には黒木智子×田村ゆりがイチオシのわたしとしてはゲラゲラ楽しく読めた作品。会話なんてなくても余裕で間が持つこの二人の関係性がいい。

「こみなんとか」さんとの絡みもしっかり抑えてあるあたり、わかってる感が強い。

まとめ

ということで、ファンなら買いの一冊かと。1,450円(税別)ちょっと高い気もするけど、それなりの作家さんを揃えているので致し方ない。それぞれベクトルの違いこそあれ、原作へのリスペクトと愛情を感じ取ることが出来た。

原作マンガはスクウェア・エニックスから出ているのに、アンソロ本は星海社から出ているのも、出版社の垣根を飛び越えたコラボ企画としては良い試みかと思われる。まあ、スクエニよく許可出したよね。

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 小説アンソロジー (星海社FICTIONS)

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 小説アンソロジー (星海社FICTIONS)

 

ちなみに、途中で挫折していたワタモテ再読のきっかけを作って頂いたのは、今は亡きガムさんのブログでの一連の書き込みから。わたしの知っているとワタモテと全然違うことが書かれている!と、衝撃を受けて7巻以降を読んでみて見事にハマったのであった。ガムさんホントにありがとうございました。

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