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『人間臨終図巻』山田風太郎 総計923人の死にざまを綴った異色作

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古今東西の偉人たちの死にざま

筆者の山田風太郎(やまだふうたろう)は、1922年生まれの小説家。ミステリ作品から、忍法帖シリーズや室町モノ、明治モノと膨大な小説作品を残したこの作家だが、本作のようなエッセイ(と言っていいのかな?)作品も残している。

『人間臨終図巻』は徳間書店の小説誌「問題小説」(現在の「読楽」の前身)の1978年9月号~1987年2月号にかけて連載されていた作品をまとめたもの。

単行本版は1986年に上巻が刊行。翌、1987年に下巻が刊行されている。

その後、1996年に全三冊となった新装版が登場し、2001年に最初の徳間文庫版が登場する。こちらも全三巻。この徳間版の刊行中に、筆者の山田風太郎は物故している。山田風太郎ならではの諧謔を最期に見せつけられたようで、当時は感慨深く受け止めた。

続いて2011年には徳間文庫の新装版が登場。こちらでは全四冊となった。

これで終わるかと思ったら、まだ続きがあって、KADOKAWAの山田風太郎ベストコレクション版(角川文庫)が2014年に登場。こちらは全三冊。現在手に入れやすいのは、徳間の新装版か、角川文庫だろう。

人間臨終図巻 上 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)  人間臨終図巻 中 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫) 人間臨終図巻 下 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

歴史上の著名人たちが、その生涯をどのように閉じたのか興味がある方。さまざまな「死」のバリエーションを知りたい方。断末魔の苦しみについて考えてみたい方。山田風太郎ならではの死生観を知りたい方におススメ。

内容

自分と他人の差は一歩だ。しかし人は永遠に他人なることは出来ない。自分と死者との差は無限だ。しかし人は今の今、死者になることも出来る。古くは紀元前のアレキサンダー大王から、新しきは坂本九、大川橋蔵に至るまで、古今の有名著名人たち923人の、死にざまを網羅した臨終図鑑。

ただひたすらに死んでいく

このシリーズは時代別や五十音順といった体裁を取っておらず、享年順で掲載されている。総勢923名にも及ぶ膨大な臨終記録がとにかく圧巻。よくもまあこれだけ調べたもの。老若男女、洋の東西、新旧の別なく実に多くの人間について触れられており興味は尽きない。

本巻を読んでいて、特に面白かったのは、これまで知らずにいた偉大なる明治人の数々を知ることが出来たことだろう。功なり名遂げた明治人の気骨というか、迫力とは凄まじいものがあり、惰弱な令和の民にはとうてい真似出来ないことばかり。死ぬのもなかなか大変だと感じ入った次第なのであった。

人は死からは逃れられない

このシリーズ、とにかく分厚いのだが、一編一編はせいぜい数ページと、わりと気軽に(といっては不謹慎だが)読めてしまう。織田信長のように、その死そのものが歴史上の大事件だった人物を除けば、偉大な業績を残した人物でも意外にその晩年は知られていないもの。

事故、暗殺、自殺、病死、戦死と死に至るパターンは実に豊富。死は唐突に訪れる場合もあれば、静かに緩慢に病魔がその身を蝕んでいくこともある。長寿に恵まれた大往生に見えても、医療が発達していない時代の病死はとにかく辛い。病に犯された末の、断末魔の苦しみは、読んでいてなんとも暗澹たる気分にさせられた。