何度何度も再刊されてきた名作
1990年刊行作品。梶尾真治の代表作の一つである。1991年の第12回日本SF大賞受賞作。今は亡き朝日ソノラマの小説誌『獅子王』に連載されていた作品だ。
この作品の特筆すべき点は、驚くほどに何度も再刊されていることである。1990年の単行本版の二年後、1992年にはソノラマノベルス版が登場。
さらに二年後の1994年にはソノラマ文庫版が登場した。
そして五年後の1999年にはソノラマ文庫ネクスト版が登場。わたしが読んだのはこの版である。
これだけなら朝日ソノラマが良作を何度も使いまわしただけなのでは?と突っ込みたくなるところだが、七年後の2006年に光文社文庫版が登場するのである。
この時期は、朝日ソノラマが営業を終了したタイミングだっただけに、名作を世に残すという意味では価値のある再刊であったはずである。
そして、つい最近である2018年には徳間文庫版まで登場してしまった。この際に電子書籍化も行われている。
つまりこの作品は、最初の単行本版を含めると、ソノラマノベルス版、ソノラマ文庫版、ソノラマ文庫ネクスト版、光文社文庫版、徳間文庫版と計6つもの版が存在するのである。最初の版元の朝日ソノラマが、無くなってしまったという事情はあるにせよ、作品そのものに力がないと、これほど息の長い作品にはなりえないだろう。
あらすじ
平凡な主婦だった神鷹静香(こうたか しずか)はテロに最愛の夫と娘を奪われる。ショックで廃人同様となった静香を救うために施された心理療法だったが、それはテロリストに対する強い憎悪を植え付けるものだった。テロリスト集団に対して闘いの道を選ぶ静香だったが、人工的にしくまれた心理療法の歪みが次第に静香の精神の平衡を奪っていく。
脇役好きにはたまらないお話
「ダメ人間が頑張って一世一代の大活躍」ってハナシはわたしの泣きのツボの1つで、メインキャラクタの魅力もさることながら、随所に登場するサブキャラ(わりとダメな奴)の頑張りがなんともいい味を出していて泣かせてくれるのであった。何度も復刊されている作品だがそれだけの価値は確かにある。もっと読まれていていい作品だと思うぞ。
傷の多い作品だがそれもまた良し
いくら訓練受けたからってこないだまで普通に主婦やってた女性がこんなに強くなれるものなのかとか、ペーパー航宙士だった人間がいきなり宇宙船操縦出来ちゃう(しかも天才的に上手い!)ものなのかとか、いろいろ突っ込みたいところは確かにある。描写がくどくて興をそぐ場面も散見されるし、実はメインタイトルがイマイチだってのもある。しかしそれらを全て補ってあまりある面白さなのだ。
数奇な運命に弄ばれた平凡な主婦の復讐劇としての面白さに加えて、本作ではふんだんに放り込まれた、SFならではのアイデアが抜群にイカして最後まで飽きさせない。まさにSFでないと出来ない物語。上下巻800ページ強とかなりのボリュームなのだけど、読み始めたら止められなくなる徹夜本なのである。