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『愚か者死すべし』原リョウ 九年ぶりの新作(当時)

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超遅筆作家、原リョウの五作目

2004年刊行。リョウと表記しているが、実際には「僚」のにんべんがない「つくり」の部分だと思って欲しい。正確な漢字は機種依存文字なので表示出来ないのであしからず。

愚か者死すべし

愚か者死すべし

  • 作者:原 リョウ
  • 発売日: 2004/11/25
  • メディア: 単行本
 

ハヤカワ文庫版は2007年に刊行されている。

愚か者死すべし (ハヤカワ文庫 JA ハ 4-7)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ハードボイルド系の作品が好きな方。新宿の街を舞台としたミステリ作品を読んでみたい方。レイモンド・チャンドラー作品に登場する、フィリップ・マーロウみたいな、とにかく格好の良い私立探偵が好きな方におススメ。

あらすじ

新宿署内部での銃撃事件。撃たれた男の名は伊吹哲哉。鏑木組組長銃撃犯として拘留され、移送の最中での出来事だった。沢崎の機転で伊吹は一命を取り留めるが、逸れた弾丸は若手刑事の命を奪ってしまう。単なる暴力団同士の抗争事件なのか?事件の調査に乗り出した沢崎は、底知れぬ闇の世界に足を踏み入れていくことになるのだが……。

とにかく新作が出ない作家、原リョウ

原リョウは1988年に『そして夜は甦る』でデビュー。翌1989年に刊行された『わたしが殺した少女』で直木賞をスピード受賞。なんと作家デビューして、第二作でいきなり直木賞ゲットなのである。これは凄い。

1990年に短編集の『天使たちの探偵』、その後五年の沈黙の後に『さらば長き眠り』を上梓している。この四作はいずれも私立探偵沢崎を主人公としたハードボイルド作品である。

今回紹介する『愚か者死すべし』は、なんと前作から九年ぶりの新作。沢崎シリーズを読み始めた頃は、まだわたしは学生だっただけに、この作品に続きが出たと知った際には歓喜の涙を流したものである。

原リョウの怖ろしさはまだ続く。この後、第六作となる『それまでの明日』が登場するまでには、ここから更に十四年の歳月が必要だったのである。直木賞作家でかくも寡作な作家も珍しい。三十二年のキャリアで六冊しか作品を出していないのだ。

ここからネタバレ

沢崎が居る新宿の街を楽しむ

何はともあれ沢崎が久々に新宿の街に帰ってきたことを、素直に喜んで読んだものである(当時)。

久しぶりの沢崎だが、そのキャラクター性は相変わらず。武士は食わねどなんとやらな、やせ我慢ぶりで、規定以外の報酬は受け取らないし、美味しい誘いも全部却下。卑しき街を行く探偵たるものやはりこうでなくてはあるまい。作者のレイモンド・チャンドラーへの私淑ぶりは相変わらずのようだ。

携帯電話の普及が物語を変える

この作品が出るまでに変わってしまったことは、携帯電話の普及だろう。物語の作り方がかなり変わってしまうのだ。当然沢崎のオッサンはケイタイなんて使えない。メールはともかく、通話くらい出来ないとさすがに不味いと思うぞ。間違ってもインターネットとか使えないんだろうなあ。

この点、最新作の『それまでの明日』では、現代のネット社会がどう扱われているのか気になるところである(未読だけど)。

ちょっと複雑すぎたかも

複雑なプロットをえいやっと最後に収束させてみせる手際に、原リョウならではの、確かな職人芸を感じるのではあるが、ちょっとややこし過ぎたのではないかと。

暴力団の抗争から始まって、戦後の政界を牛耳ったフィクサーの存在まで話を広げたのはちょっとやりすぎの感がある。手を広げすぎた分ヒロインが誰だかわからなくなってしまったのも惜しい。久々の登場ってことでまずは顔見せが大事だとは思うけどね。これだけ間隔が開くと、これまでの設定を読者としても忘れてしまう。

最新作の『それまでの明日』を読む前に、もう一度最初から読んでみようかな。

愚か者死すべし (ハヤカワ文庫 JA ハ 4-7)

愚か者死すべし (ハヤカワ文庫 JA ハ 4-7)

  • 作者:原 りょう
  • 発売日: 2007/12/01
  • メディア: 文庫