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『関ヶ原連判状』安部龍太郎 直木賞作家の出世作

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安部龍太郎のブレイク作品

1996年刊行作品。作者の安部龍太郎(あべ りゅうたろう)は1955年生まれ。1987年にデビューして、ほぼ一貫して歴史小説の書き手として活躍している。2012年には豊臣政権下で活躍した絵師、長谷川等伯の生涯を描いた『等伯』で直木賞を受賞。これはキャリア25年目での栄冠であった。

本日ご紹介する『関ヶ原連判状』は安部龍太郎の出世作である。

新潮文庫版は1999年に刊行。文庫から上下巻に分冊されている。

その後2011年に集英社文庫版が登場。

関ヶ原連判状 上巻 (集英社文庫) 関ヶ原連判状 下巻 (集英社文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

歴史小説が好き、特に戦国時代が好き。ましてや関ヶ原の合戦は大好物!と思っている方。細川幽斉目線で関ヶ原合戦を読み解いてみたい方。「古今伝授」というキーワードにピンとくる方。ブレイク前の安部龍太郎作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

天下分け目。戦国の総決算関ヶ原の決戦を前に、西軍にも東軍に与せず、独自の道を模索する男がいた。和歌の正統を受け継ぐ「古今伝授」を切り札に、謀略の限りを尽くして両巨頭に挑む細川幽斉。圧倒的な大軍を前に孤軍奮闘する幽斉。そして彼が持つ、最後の切り札「連判状」とは……

ここからネタバレ

細川幽斉目線での関ケ原合戦が面白い

関ケ原合戦は日本史上屈指の大戦であったが、東西両軍さまざまな武将が権謀術数の限りを尽くした。その中で異彩を放っているのが、細川幽斉である。武将でありながらも、「古今伝授」の秘伝を受け継ぐ幽斉は、自身の希少価値を喧伝して関ケ原合戦で独自の存在感を示そうとする。関ヶ原合戦モノが大好きなわたしとしては、こういうお話は大好物。

ちなみに「古今伝授」とは、

勅撰和歌集である古今和歌集の解釈を、秘伝として師から弟子に伝えたもの。狭義では東常縁から宗祇に伝えられ、以降相伝されたものを指す。

古今伝授 - Wikipediaより

であり、本来は公家の三条家が受け継ぐものであったが、たまたま当時の当主が幼少であったため、細川幽斉が一時的に伝授を受けていたのである。

主人公の薄さが……

しかしこの話、とても残念ことに主人公が薄い。これだけの長編の看板背負って主役を張るにはキャラが弱すぎるのが惜しい。何ゆえに幽斉はこれほどの大事を家中の人間でもない一傭兵に託すのか、作劇上の都合とはいえ、もちっと納得のいく設定を考えて欲しかった。

古今伝授を関ヶ原に絡める発想は秀逸で期待していたのに、尻すぼみな展開。連判状のオチも残念度高めで、終盤は劇的にトーンダウンしてしまうのであった。序盤のわくわく感が最後まで維持できれば……。ネタは良いだけにもったいない。

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