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『死なない生徒殺人事件~識別組子とさまよえる不死~』野崎まど 不死は存在するのか?


野崎まどの第三作

2010年刊行作品。野崎まどとしては、『[映] アムリタ 』『舞面真面とお面の女』に続く三作目の作品である。

死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~ (メディアワークス文庫)

その後、野崎まどが売れっ子になるに伴い、2019年に新装版が登場している。現在買うならこちら。

なお、本作は野崎まどの初期六部作の中の一冊である。六部作最後の『2』は、かならず既刊の五冊を読んでから挑戦すること(と言われている)。

とかいいながら、わたしもまだ『[映] アムリタ』しかと、本作しか読めていないので、ひととおり読んだら、もうすこし本稿も追記するかも。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

毛色の変わった学園ミステリを読んでみたい方、女子校を舞台とした作品を読んでみたい方、野崎まどの初期作品を読んでみたい方。そして『2』をいずれ読んでみたい方におススメ。

あらすじ

私立藤凰学院に赴任した生物教師の伊藤は、同僚の受村から奇妙な噂を聞く。学園の中に「永遠の命を持った生徒がいる」と云うのだ。真剣に取り合わなかった伊藤だが、その後、彼の前に「不死」を自称する女生徒、識別組子が現れる。しかし彼女は、何者かによって殺害されてしまう?犯人は誰なのか、そしてその目的は何処にあるのか?

ここからネタバレ

登場人物一覧

本作の主な登場人物はこんな感じ。

  • 伊藤(いとう):28歳。藤凰学院の生物教師。主人公
  • 受村(うけむら):26歳。藤凰学院の物理教師
  • 有賀哀(ありがあい):27歳。藤凰学院の化学教師。学院OG。寮の管理人 
  • 天名珠(あまなたま):高等部二年。転校生。空気が読めない
  • 行成海(ゆきなるみ):高等部二年。にぎやかな性格
  • 識別組子(しきべつくみこ):高等部二年。不死を自称する生徒
  • 可愛求美(かあいもとみ):高等部二年。変わり者

私立藤凰(とうおう)学院は幼稚園から高校まである一貫校。創立者は学者、教育者として知られる一因縁(いちなみゆかり)。女子ばかりが2,500人も集う乙女の園である。立地は京王井の頭線の三鷹台とあるので、立教女学院を意識しているのかな?

本作は京王井の頭線沿線を舞台とした小説である。学校は三鷹台。飲みに行くなら吉祥寺。主人公の家は西永福にあったりと、かつて近郊に住んでいた人間としてはちょっと嬉しい。

識別組子の不死の仕組み

識別組子は自らの不死性を自称するが、その直後に殺害されてしまう。しかもその首は胴体と切断されていた!おいおい、「死なない生徒」殺人事件じゃなかったのかよ!壮絶な出オチであると思わせておいて、その直後に識別組子は、可愛求美の肉体を借りて復活を遂げる。

つまり、この学園における「死なない生徒」とは、精神の不死なのである。識別組子を自称してきた「死なない生徒」は、学院の歴代生徒たちの肉体を乗り換えながら、その不死性を保ってきたのである。

偽物の不死と本物の不死

ただ、藤凰学院における不死の仕組みは、厳密にいうと不死ではない。彼女たちは、自らの意識の複製と同期を「教えること」によって成立させている。「死なない生徒」たちは全員の知識を都度共有することで一つの人格を保っているのである。超科学、はたまた超自然的な何か、もしくは魔術的な仕掛けを想定していた読者としては、まさかの超アナログ技術にビックリである。

そして、本物の不死者である事実が最後に明かされるのが天名珠である。空気が読めず、クラスで孤立する彼女は、執拗なまでに「死なない生徒」としての識別組子にこだわる。果たしてその真相は、彼女こそが真の不死者であり、であるが故に同胞を探していたのである。

天名珠は、識別組子の不死性を確認するために、首と胴体を切断して殺害する。そして可愛求美の心臓をえぐり取る。天然っぽい無邪気なキャラクターと相反した残虐な殺害行為。真の不死者ならではの常人を超越した倫理観が実に不気味で、いかにも野崎まど作品らしい、嫌~な後味を残して去っていく。

天名珠は「本物」であるが故に、「偽物」や、ましてや普通の人間とは友情を育めないと考えている節がある。「本物」は孤高の存在であり、種として高次の存在である。故に「偽物」以下は自分以下の生物なのだから何をしてもかまわない。

「友達になるのに大切なのは心」。そんな伊藤の主張が、果たしてどれほど天名珠の心に届いたのかはなんとも微妙なところである。

人ならざるものに取り囲まれる恐怖

学校とは独自の文化、思想、価値観が育つ場所である。歴史のある女子一貫校であれば、なおさらその傾向は強くなるだろう。本作の怖さは、一般人として、異界である藤凰学院に赴任してきた主人公が、ふと気づけば、周囲を人ならざるものたちに取り囲まれていたという点にあるだろう。

そしてこの物語の恐怖は二重底になっている。人ならざるものたちの中に、更に「本物」の人外が紛れ込んでいたのである。これはけっこうエグイ。見慣れた日常の光景が、瞬く間に暗転していく展開は、野崎まどならではの鮮やかな手際と言えるだろう。

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