野崎まどの第二作
2010年刊行作品。タイトルの『舞面真面とお面の女』の読みは「まいつらまともとおめんのおんな」である。
『[映]アムリタ』に続く、野崎まどの第二作。『死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~』『小説家の作り方』『パーフェクトフレンド』『2』へと続いていく、野崎まど初期六部作のひとつである。
ただ、本作単品で読んでも特に問題はない。
折からの野崎まど人気を受けて、この初期六部作は全て新装版が刊行されている。これらは2019年のリリース。旧版のイラストはどまそが担当していたが、新装版では一貫して森井しづきが作画を担当している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
野崎まどの初期六部作シリーズを全部読む!という方、タイトルを見てビビッと閃いた方、最後にビックリするようなミステリ作品を読んでみたいか、民俗的な要素のあるミステリ作品を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
大学院生、舞面真面は叔父からの要請を受けその屋敷を訪れる。叔父からの依頼は、曾祖父、彼面が残した遺言の謎を解く事であった。戦前に僅か一代で巨大財閥を築き上げた舞面彼面が残した遺産とは?従姉の水面と共に、調査を開始した真面だったが、突如とした現れた面を被った少女の登場で事態は急転する。果たして彼女の正体は?
まず舞面一族の皆さんを整理
似たような名前の登場人物が多いので、まずは舞面(まいつら)家の関係者をまとめてみよう。
- 舞面真面(まいつらもとも):主人公。工学部の大学院生
- 舞面水面(まいつらみなも):主人公の従姉。影面の娘
- 舞面影面(まいつらかげとも):主人公の叔父
- 舞面彼面(まいつらかのも):主人公の曾祖父、財閥の創始者
- 舞面鏡(まいつらかがみ):影面の妻、水面の母
- 熊佳苗(くまかなえ):舞面家のお手伝いさん
- 三隅秋三(みすみしゅうぞう):探偵
- 沢渡みさき(さわたりみさき):お面の少女
舞面家の名前が紛らわしすぎる!ぼーっと読んでいると誰が誰だがわからなくなるので、これは注意が必要である(わたしだけ?)。
ここからネタバレ
曾祖父の遺言の謎を解く
舞面財閥の創始者、舞面彼面が残した遺言は以下の通り。
箱を解き
石を解き
面を解けよきものが待っている
『舞面真面とお面の女』(旧版)p35より
戦前には一大勢力であった舞面財閥も、戦後の財閥解体を乗り越えられず、当主彼面の死後は衰退を続け、往時の勢力はない。唯一残された影面の会社もあまり羽振りは良くなさそう。
遺言に対応して、舞面家には「心の箱」と呼ばれる金属製の小箱と、「体の石」と呼ばれる立方体状の巨石が遺されている。そして、歴代当主たちの前に現れ続けた「お面の女」が登場。箱、石、面の三つが揃ったところで、主人公たちが遺言に隠された謎に迫っていく筋書きである。
飢え乾いた狂暴な人格と新しい価値観
本作の主人公、舞面真面は卓越した能力を持ちながら、それをひけらかさない。天与の才を持つ真面にとって、多くの現実は予想の範囲内であり驚くようなことは何もない。退屈の中で生き、凡人として一般人の中に同化してきた真面だったが、その内面には飢え乾いた狂暴な人格を潜ませている。つまり真面自身が「面」を被った人間なのである。
そんな真面に対して、お面の少女、沢渡みさきは「そういう奴に出会ったら、面を割ってやる事にしている」と告げる。
少女との交流を通じて、真面の内面にも変化が訪れる。自分の中の「飢え乾いた狂暴な人格」を時々は出してやっても良いのではないか?そう考えるようになるのである。
「面」を自ら割る決意を固めた真面の選択とは?それがラストのどんでん返しに繋がっていく。
白面さんじゃないですか!
沢渡みさきこと「お面の女」の正体は、封じられた妖のものであった。
狐のような面、白くて大きな妖怪、千と何百年前に四つの国を滅ぼした。どことなく「九尾の狐」を思わせる特徴である。往年の妖怪マンガ『うしおととら』で言うところの「白面の者」ってぽい。
箱と石、面によって封じられていた彼女は、真面によってその力を取り戻す。そして、真面は「面」の中に封じてきた自らの「飢え乾いた狂暴な人格」を表に出すことを決める。全ては退屈しのぎであるという点が、天才ならではの不条理感ではある。巻き込まれていく一般人(三隅さんとか)がホントに可哀そう。あんなに好き好きオーラ全開で迫ってくる水面にしても、真面は同格以下の存在としか見做していないのだろうね。
「こちら側」だと思って読んでいた主人公が、最後は「あちら側」の人間になってしまう。読み手である自分は凡人なのだと、突き放してくるあたり、いかにも野崎まどらしいブラックさが際立つ一作と言えるだろう。
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