半世紀以上前に書かれた司馬遼太郎の傑作
1964年刊行作品。1962年に「小説中央公論」誌に連載されていた作品である。
さすがに当時の書籍はAmazonでも売っていないので、新装改版の方をリンク。
文庫はまず、こちらの中公文庫版がある。
そして、一番世に出ているのではないかと思われる角川文庫版がある。わたし読んだのもこちら。
あらすじ
幕末。動乱の京都を舞台に反幕府勢力と壮烈な抗争劇を繰り広げた新選組。短い歳月の中で隊士たちは時代と云う名の過酷な運命の奔流に巻き込まれていく。それぞれの野心や苦悩を抱えながらも……。新選組を彩った様々な男たちにスポットライトを当てた十五編の短編集。
『燃えよ剣』ではないシバリョウの幕末モノ
司馬遼太郎作品で新選組をテーマにした作品といえば、言うまでもなく名作『燃えよ剣』がある。
『燃えよ剣』以外にも新撰組を題材にした司馬遼太郎作品があったのかと思い、やや意外な気持ちで手に取ってみた。本作は長編作品ではなく、複数の隊士それぞれに焦点を合わせた短編集となっている。そう考えてみるとタイトル名にも納得が行く。
個性豊かな新撰組の面々
芹澤鴨、伊藤甲子太郎といった幹部クラスの暗殺事件から、薩摩の間者、赤穂浪士の因縁話、名刀虎徹の意外な来歴等々、豊富なバリエーションで新選組隊士たちの思いもよらぬエピソードが綴られていく。幕末ファンならお馴染みの、斉藤一や山崎燕、原田左之助といった面々が個性豊かに描かれていて、知識の隙間を補って貰えたような、不思議なな充足感を感じた作品集なのであった。これは楽しい。いくらでも他の隊士のエピソードを読んでみたくなる。
沖田総司の短編「菊一文字」が特にいい!
いずれ劣らぬ良作揃いなのだが、あえて一作白眉をあげるとすれば最後の「菊一文字」だろうか。本作の中では脇役として語られることの多かった沖田総司が最後の最後で大いに魅せてくれる。
わたしはそれほど新選組に傾倒している方ではないのだが、このシリーズで描かれている沖田総司の童子のような透明感にあふれた人柄は実に魅力的。それだけに総司が剣鬼と化す本編ラストは背筋に戦慄が走り抜けた印象的な幕の引き方。これは痺れる。
三回映像化されている
司馬遼太郎の名作だけあって、本作は三回も映像化されている。
まずは1965年のNET(現テレビ朝日)版。原作が出て早々のドラマ化である。主演栗塚旭(土方歳三役)。
続いて1998年の渡哲也主演(近藤勇役)によるテレビ朝日版。こちらは残念ながらDVD化されていない。
そして、2011年の永井大主演(土方歳三役)のNHK版である。