乙一初のスニーカー文庫作品
2000年刊行作品。 乙一(おついち)としては四作目の作品。JUMP j BOOKSの『夏と花火と私の死体』でデビューし、その後集英社メインで作品を発表してきたこの作家としては、初めての他社作品ということになる。もちろんスニーカー文庫への登場はこれが最初となる。
乙一はジャンプ大賞出身でデビューは17歳(早い!)。1978年生まれなのでまだ、本作の刊行当時はまだ22歳だった。でも、当時は若いデビューだなと思ったけど、昨今これくらい若い年代でデビューするのは当たり前になってしまった感がある。それだけライトノベル業界の青田刈りが進んでいるってことなのだろうけど、10年、20年先になっても書いていられる作家はそうそう多くないので、乙一はよく生き残っている方だと思う。
なお、本作は『しあわせは子猫のかたち』名義で、角川つばさ文庫からもリリースされている。『失踪HOLIDAY』も収録されており、表題作を入れ替えた形になっている。ダークな部分がない、白乙一系の作品だから、児童向けレーベルでも安心して出せる。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
初期の頃の乙一作品を読んでみたい方。怖い話、エグい話は読みたくない方(黒乙一は苦手な人!)。心のほっこりする作品を読んでみたい方。羽住都の表紙ビジュアルにピンと来た方におススメ。
あらすじ
14歳の菅原ナオは継母と大喧嘩。突発的に家を飛び出してしまう。離れに潜伏し家族の様子を伺うナオだったが、次第に騒ぎは大きくなり戻るに戻れなくなる羽目に。少女の巻き起こした狂言誘拐事件の意外な顛末を描く表題作と、他者とのコミュニケーション不全に悩む少年と心優しい自縛霊の織りなすハートフルなストーリー「しあわせは猫のかたち」の二作を収録。
「ジャイアンみたいな女の子」がいい感じ
淘汰の激しいこの業界で五年経ってもまだ作品が出せるというのはそれなりに実力あって始めて出来ること。やたら強気な「ジャイアンみたいな女の子」の元気っぷりが痛快で、コミカルな描写も堂に入っていて読んでいてとにかく飽きないのだ。一気果敢に読み切ってしまった。羽住都(はすみみやこ)のイラストも良いのだろうけどクニコさんのキャラはほのぼの感が漂っていてとても好感触。三畳部屋の小さな炬燵でのたゆたう時間についての描写が特に印象的なのであった。
ラストのオチは犯人たちにとってはあまりに危険な賭けではあるわけなのだが、あのキャラクターならそれもありかな、許せるかな、と思える程度には、行動にぎりぎり説得力あったかな……。ミステリとしての着地もとりあえず許容範囲の点数。白乙一系のエントリー作品としてはなかなか良いのではないかと思われる。
コミカライズ版もあった!
なお、わたしは全く気付いていなかったのだが、2006年に清原紘(きよはらひろ)によるコミカライズ版が登場している。こちらも、機会があれば読んでみたいところである。アマゾンのレビューを見ている限りでは、評判は良さそう。