「曽我兄弟の仇討ち」を題材とした歴史小説
本日ご紹介する『曽我兄弟より熱を込めて』は2023年の刊行作品。著者の坂口螢火(さかぐちけいか)さんより著作をご恵贈頂き、感想を書かせていただきました。坂口さんありがとうございます!
巻末の作者プロフィールを引用させていただくとこんな感じ。
東京都大田区出身。駒澤大学歴史学科卒業後、小学校教員になる。児童及び教員の歴史離れの深刻さを目の当たりにして、歴史ものの執筆活動を始める。「神話ログ」「古典ログ」などのブログも運営中。
『曽我兄弟より熱を込めて』奥付より
本作以外の著作として、以下の作品がある。
- 忠臣蔵より熱を込めて(2021年)
- 平家物語より熱を込めて 上(2022年)
- 平家物語より熱を込めて 下(2022年)
- 山中鹿之介と尼子十勇士より熱を込めて 上(2022年)
- 山中鹿之介と尼子十勇士より熱を込めて 下(2022年)
- 曽我兄弟名言集 上(2023年)
- 曽我兄弟名言集 下(2023年)
『曽我兄弟より熱を込めて』以外の作品は、2023年4月現在、全てKindle Unlimitedに対応しているようなので、登録されている方は要チェック。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
「曽我兄弟の仇討ち」って時々耳にするけれども、実際にはどんな事件だったのかよく知らない方。「曽我兄弟の仇討ち」について、幅広く知見を深めたい方。鎌倉時代を舞台とした歴史小説を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
曽我十郎祐成(そがじゅうろうすけなり)と五郎時宗(ごろうときむね)の兄弟は、幼くして父、河津祐泰(かわづすけやす)を親族である工藤祐経(くどうすけつね)によって殺害される。冷遇され艱難辛苦の中で育つ兄弟。一方、仇の工藤祐経は源頼朝の寵臣となり権勢を振るう。やがて立派な若武者として成長した兄弟は、父の仇を討つべく、頼朝が主宰した富士の巻狩りに乗り込むのだが……。
ここからネタバレ
意外に知られていない「曽我兄弟の仇討ち」
歴史好きの方であれば「曽我兄弟の仇討ち」をご存じの方は多いだろう。ただ、具体的に曽我兄弟はいかなる人物で、誰が仇として討たれたのか。その理由は何だったのか。そこまで知悉している方は少ないのではないだろうか。
軽くAmazonで検索してみたけれど、曽我兄弟をメインに扱った歴史小説は本作以外には、高橋直樹の『天皇の刺客 曽我兄弟の密命』と、ジュブナイルレーベルである講談社青い鳥文庫から出ている、時海結以(ときうみ ゆい)の『きずなの兄弟と鎌倉殿 曽我物語』くらいしか発見することが出来なかった。マンガでは湯口聖子(ゆぐちせいこ)の『天翔ける星』があったけど、いずれにしても少なっ!
しかしながら、「曽我兄弟の仇討ち」は「曽我もの」として江戸時代から戦前の日本において、講談や歌舞伎、浮世絵などの題材として絶大な人気を誇っていたらしい。最近は「忠臣蔵」ですらも、まったくドラマ化されなくなっていると聞くので、昨今の価値観だと仇討ちものは流行らないのだろうか。
スタンダードな形で「曽我兄弟の仇討ち」を世に残す意義
「曽我兄弟の仇討ち」は、1193(建久4)年に実際に起きた歴史上の事件だが、その記述は歴史書の『吾妻鑑(あずまかがみ)』にわずかに残るのみ。その後、事件を元とした物語としての『曽我物語』が成立し、さらに、講談、歌舞伎の世界で膨大な二次創作が派生していくことになる。
本作『曽我兄弟より熱を込めて』は、数多の「曽我兄弟の仇討ち」エピソードの中から、代表的、一般的なものをベースとしており、奇をてらわないスタンダードな解釈で構成された作品となっている。世に出ている「曽我兄弟の仇討ち」本が圧倒的に少ない昨今では、まずは基本的な情報を残していくことが大切になる。懸命な判断と言えるのではないだろうか。
ちなみに大河ドラマの『鎌倉殿の13人』における、「曽我兄弟の仇討ち」はかなり陰謀論に傾いた新解釈だった。あれはあれで面白かったけど、大河ドラマのような影響力の強いメディアで、ああいう思い切った解釈を披露してしまうと、今後「正史」扱いされてしまいそうで若干の危惧も残る。
歴史コラムが面白い
本書で特徴的なのは、章と章の間に挿入される歴史コラム「閑話休題」と「歌舞伎の話」だ。以下、そのタイトルをご紹介しよう。
- 閑話休題ーー住居について
- 閑話休題ーー酒、食べ物の話
- 歌舞伎の話ーー矢の根
- 閑話休題ーー当時の学問について
- 歌舞伎の話ーー寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)
- 閑話休題ーー髭切(ひげきり)、膝丸(ひざまる)について
「曽我兄弟の仇討ち」を巡る周辺エピソードが披露される。また「曽我もの」の受容史について知ること出来るので、作品を理解するのに大いに参考となる。
名刀髭切、膝丸については、本編では出てこなかったので取り扱わないつもりなのかな?と思っていたら最後にコラムで出てきたので嬉しかった。近年では『ゲーム刀剣乱舞(とうけんらんぶ)』の世界で有名になってしまったので、実は刀の方が知られているかもしれないね。
おまけ
以前に、趣味で東海道を日本橋から三条大橋まで自転車で走破したことがある。東海道の箱根~小田原周辺には、曽我兄弟にまつわるスポットがたくさんあって、何枚か撮影したものがあるのでついでに公開。古い写真なので解像度低めでゴメン。
こちらは曽我兄弟のお兄さんの方、十郎祐成の想い人であった、虎御前(本作には登場しなかったが)が使ったと言われる化粧井戸(けわいいど)。
こちらは、JR御殿場線、下曽我駅前にある曽我乃正栄堂。こちらは五郎時宗に由来する、五郎力餅を販売していることで知られる和菓子屋さん。
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