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『すみれ屋敷の罪人』降田天 「回想の殺人」を描いた良作ミステリ


降田天の三作目

2018年刊行作品。降田天(ふるたてん)は、萩野 瑛(はぎのえい)と鮎川颯(あゆかわそう)の両名で構成される合作作家のペンネームである。

このコンビ作家の活動歴は長い。鮎川はぎ名義で刊行された「横柄巫女と宰相陛下」シリーズで2007年にデビュー。ノベライズ系のペンネームとしては高瀬ゆのか名義でも活動しており、三つの筆名での著作は40冊を超える。

降田天としての活動は、2015年の『女王はかえらない』から。この作品が『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作となり、一般文芸の世界への進出を果たしている。

すみれ屋敷の罪人 (『このミス』大賞シリーズ)

宝島社文庫版は2020年に刊行されている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

過去に起きた殺人を振り返る「回想の殺人(スリーピング・マーダー)」方式のミステリを読んでみたい方。戦前の日本、特に華やかな名家を舞台とした作品を読んでみたい方。美しい三姉妹や、癖のある使用人たち。お屋敷で展開されるミステリを読んでみたい方におススメ!

あらすじ

戦争の暗い影が忍び寄ってきた時代。名家・紫峰家であの時何が起きたのか。温厚な主人と美しい三姉妹を襲った残酷な運命とは。廃墟となった屋敷跡から発見された白骨死体は何を物語るのか。使用人たちの回想の中から、幾多もの歳月を経て、隠されてきた事件の真相に光が当たる。

ここからネタバレ

使用人たちの証言から事件を再構築する

物語の第一部は「証言」編である。

探偵役を務める、西ノ森泉(にしのもりいずみ)は、かつて紫峰家で働いていた使用人たちの証言を集めることで事件の謎に迫ろうとする。登場する証言者は四人。女中、使用人、料理人の娘、家具職人の息子。

証言を集めていくタイプの作品で面白いのは、証言者の発言の食い違いである。証言者は必ずしも本当のことを話すとは限らない。全てを話すとも限らない。自分に有利になるように嘘を混ぜ込んだり、記憶違い、認識の誤りも混ざりこんでくる。

第一部で登場する四人の使用人たちは、それぞれの意図をもって、西ノ森の調査をミスリードさせようとする。彼らの意識の根底には、主家に対する忠誠心があり。その優しさ故に証言は食い違う。

証言を聞けば聞くほど、事件の解像度が不明確になり、ハッキリしなくなってくるのである。この構成はなかなかに興味深い。

思わぬ人物が再登場

第二部は「告白」編である。戦前の事件で死んだと思われていた、予想外の人物が再登場し一気に事件の謎が解明されていく。

現代パートでの、西ノ森による、本橋(栗田)信子への聞き取り調査は2001年6月2日に行われたとされている。紫峰邸の火災事件は1939(昭和14)年に発生しているので、60年余の年月が経過していることが読み取れる。

戦前の事件を元に、本作のような「追憶の中の殺人」的なお話を書こうとするときに、どうしても向き合わなければならない制約がある。それは登場人物たちの年齢設定である。本作では現代パートを2001年に設定しているが、これは関係者が存命していられるギリギリの時間軸だろう(それでも玲二は相当に長生きだが)。

それだけに、重大な秘密を抱えたまま死んでいく覚悟を決めていた岡林誠が、ラストシーンで御園涙子と再会できたシーンは感動的である。

三姉妹とヒナの魅力

『すみれ屋敷の罪人』の物語をより魅力的にしているのは、紫峰家の美しき三姉妹、葵、桜、茜の三人と、謎めいた使用人ヒナの存在である。

絵画の才能に優れ、気まぐれで自由奔放な葵。献身的でしっかり者の桜。天津爛漫キャラの茜。陽の存在とでも言うべき三姉妹に対して、顔面に傷を持ち、鬱屈した感情を裡に抱えたヒナは、陰の存在ともいえるキャラクターである。

この四人の名前は、すべて実在するスミレの種類に基づいていることが、本作の後半で明かされている。幸いWikipedia先生に画像が全てあったので、引用形式でご紹介させていただく。

アオイスミレ

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/65/Viola_hondoensis_2.JPG/1280px-Viola_hondoensis_2.JPG

サクラスミレ

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/71/Viola_hirtipes_2.JPG/1280px-Viola_hirtipes_2.JPG

アカネスミレ

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/c7/Viola_phalacrocarpa_1.JPG/1280px-Viola_phalacrocarpa_1.JPG

ヒナスミレ

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1a/Viola_tokubuchiana_var._takedana_1.JPG/1280px-Viola_tokubuchiana_var._takedana_1.JPG

日本産スミレ属の一覧 - Wikipediaより

キャラクターの個性を反映してか、ヒナスミレだけがひっそりと咲いているように見えるのがなんだか切ない。 

「罪人」は誰だったのか

タイトルが『すみれ屋敷の罪人』となっているだけに、「罪人」とは誰だったのかは気になるところである。

筆頭に挙げるべきはもちろん、紫峰太一郎であろう。全ての元凶は太一郎にある。

義理の姉と不義の子をなし、偽りの失明はあまりに多くの悲劇を生んだ。自業自得ではあるものの、ヒナが顔面を焼いたと知った時の、太一郎の慟哭はさすがに鬼気迫る場面であった。彼が、使用人たちの罪に寛容であったのは、自身の罪悪感の裏返しであったのかもしれない。

そして太一郎の罪から派生して、彼の娘や、使用人たちもそれぞれに罪を抱えるようになっていく。葵は妹たちを無惨に死なせた罪に苦しみ、ヒナは姉を死なせ実父を欺き続ける罪に悩み、岡林誠は殺人を黙過した罪を生涯背負い続けた。

それが遠い過去の出来事だとしても、償いようのない罪の記憶は重い。もはやいかんともしがたい、追憶の中にしか存在しない罪。「すみれ屋敷の罪人」たちが、いかにしてそれと向き合ったのか。気の遠くなるほどの歳月を考えると、読後の感慨も深くなってくるのである。

すみれ屋敷の罪人 (『このミス』大賞シリーズ)

すみれ屋敷の罪人 (『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者:降田 天
  • 発売日: 2018/12/07
  • メディア: 単行本
 

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