第13回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞
2001年刊行。第13回の日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作品。ちなみに大賞は『クロニカ』 粕谷知世(かすやちせ)が受賞している。
新潮文庫版は2004年に刊行。
さらに2013年には単行本の新装版まで登場している。「しゃばけ」シリーズの人気たるや恐るべしである。
作者の畠中恵(はたなかめぐみ)は1959年生まれ。ファンタジーノベル大賞出身の作家の中では出世頭の一人と言っていいだろう。他社から出ている他シリーズの作品を合わせると著作数は40作を超えている。漫画家のキャリアもあるようで、作家になるまでにはいろいろな下積みをしている模様。
代表作である「しゃばけ」シリーズは好評を博し、続編が多数刊行されており、現時点で外伝を含めて既に18作目まで刊行されている。凄い!コミック版やTVドラマ化、ミュージカル化もされており、幅広いジャンルに展開が進んでいる。
今にして思えば「あやかし」系作品の先駆けとも言える作品かな。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
妖怪モノ、あやかし系の作品が好きな方。江戸時代を描いた作品、江戸時代の習俗が好きな方。和風テイストのファンタジー小説を読みたい方におススメ。
あらすじ
江戸の大店長崎屋の若旦那は生来の蒲柳の質で、十七歳のいまに至るまで生死の淵をさまようこと幾たびか。両親はただ一人の跡取りを甘やかし放題。そんな若旦那が、出先で人殺しの現場に遭遇してしまう。下手人の姿を見てしまった若旦那は、それ以来不可解な事件に巻き込まれていく。事件の背後には人智を越えたとある秘密が隠されていたのだが……。
ここからネタバレ
漢字で書くと「娑婆気」
「しゃばけ」は漢字で書くと「娑婆気」。俗世間における名誉・利得などのさまざまな欲望にとらわれる心のこと。病弱きわまりなり孫のためにと、祖父が遊び相手として雇い入れた二人の小僧、佐助と仁吉は妖怪の犬神と白沢が人に変化したものだった。幼い頃から妖怪に囲まれて育った若旦那が、彼らの力を借りながら江戸の街で起こる不思議な事件に巻き込まれていくという筋書き。
長期シリーズ化も納得の出来栄え
冒頭のシーンがなかなかに美しい。江戸時代の夜が持つ底知れぬ深さ。濃密さをさりげなくも、印象深く表現した冒頭部の描写がなかなか良い感じ。ぬばたまの闇の底からたちのぼる猛烈な血の匂い。ツカミとしてはばっちり。病弱ながらも才気煥発な若旦那と、荒事が大好きなガテン系の佐助に色男だけど怒らせると怖い仁吉。キャラクターの配置もツボを押さえていて手堅い。
江戸時代の風俗描写も巧みで、さすがにシリーズが20作近くまで続くのも納得のできばえ。腰を据えてちゃんと二冊目以降も読んでみようかな。