以下は昨年12月投稿記事の加筆修正版となる。
小林泰三逝去
昨晩(2020年11月25日)のTwittrタイムラインに、以下の一報が流れた。
小説家の小林泰三さんが11月23日午前5時56分に逝去されました。奥様はネット環境になく、田中さんに公表してもらえとご本人がおっしゃっていたそうなので、私(田中啓文)から奥様の代理として告知させていただきます。
— いかふえ (@ikafue) November 25, 2020
ほどなくして、東京創元社のホームページに訃報が掲載され、如何ともしがたい確定した事実であることが判明した。まだ58歳だから、これはあまりに早い。
小林泰三作品は、デビュー作の『玩具修理者』以来楽しませてもらってきたが、ここ数年の新作は読めていなかった。評判の良い作品が多く、いずれは積極的に読んでいこうと思っていただけに本当に残念である。
小林泰三の七作目
2002年刊行作品。ハヤカワSFシリーズJコレクションの一冊として登場した。
1997年~2001年にかけて「SFマガジン」誌に掲載されていた五編に、徳間デュアル文庫『少女の空間』収録の「独裁者の掟」、そして書き下ろしの「キャッシュ」を加えた短編作品集である。
表題作の「海を見る人」は1998年のSFマガジン読者賞を受賞している。また本書はベストSF2002で国内部門の第3位にランクインしている。
なお、ハヤカワ文庫版は2005年に登場している。
作者の小林泰三(こばやしやすみ)は1962年生まれ。
1995年に第二回日本ホラー小説短編賞を受賞した『玩具修理者』でデビュー。その後『人獣細工』『密室・殺人』『肉食屋敷』と、日本ホラー小説賞出身者らしく、ホラー系の作品を主として手掛けていた。
そんな小林泰三にとって、本作ははじめてのエスエフ短編集ということになる。その後の小林泰三は、ホラー、エスエフのジャンルばかりでなく、ミステリのジャンルにも進出。幅広いジャンルで才能を発揮している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
小林泰三初期の銘品を堪能したい方。グロくない。暗黒成分控えめ。エスエフマインドに全振りした小林泰三作品を読んでみたい方。リリカルで抒情性に溢れたエスエフならではの物語を楽しみたい方などにおススメ
あらすじ
少年の日に出会った想い人を待ち続ける老人の姿を描く表題作。長距離宇宙船内に構築された仮想空間で起きた怪事件「キャッシュ」。人格を持つ宇宙探査機の彷徨を描いた「母と子と渦を旋る冒険」。量子テレポート技術により飛躍的発展を遂げた未来の人類。そんな宇宙の片隅で起きたとある事件の顛末を描いた「門」他、計七編を収録した短編集。
ここからネタバレ
グロ系ばかりじゃない小林泰三を本作で初めて知った
当然のことながら、この作家のエスエフ作品を読んだのはこれが初めて(当時)。『玩具修理者』や『人獣細工』のような、ひたすら救いのない暗黒ホラー系の話しか読んでいなかったから、これらのエスエフ作品は非常に新鮮に感じた。
こんないい話も書ける人だったんだな。最初はホントに小林泰三が書いているのかと疑って、作者名を見直したほどである(←失礼)。精緻な科学考証により構築されたセンスオブワンダーな世界と、リリカルなストーリーのアンバランスさが良いのである。最初は伏せられている世界の秘密が、次第に明らかになっていくのはなんとも言えない快感であった。