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『天地人』火坂雅志 2009年NHK大河ドラマの原作小説

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大河ドラマの原作小説

2003年から2006年にかけて新潟日報他、複数の新聞紙面に掲載された作品を加筆修正の上でまとめたもの。2006年刊行。単行本版は日本放送出版協会から刊行されている。2008年NHK大河ドラマの原作小説である。天の巻、地の巻、人の巻の三巻構成。

作者の火坂雅志(ひさかまさし)は1956年生まれ。2015年に亡くなられている。

天地人〈上〉天の巻

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天地人〈中〉地の巻

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天地人〈下〉人の巻

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文春文庫版では上下巻構成に改められている。

天地人 上 (文春文庫) 天地人 下 (文春文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★(最大★5つ)

直江兼続が出てくる小説は全部読む!と決めている方……。くらいにしかお勧めできないかな(今回は珍しく辛口)。火坂作品ファンの方にはごめんなさい。

あらすじ

戦国時代は"利"によって人々の心が絡め取られ、血なまぐさい抗争に明け暮れた時代だった。そんな荒んだ時代の中で唯一"義"の一文字を掲げその志を終生貫き通した男たちがいた。越後の虎、上杉謙信の意思を継ぎ、主君景勝を助け過酷な時代を生き抜いた義将、直江兼続。秀吉に愛され、家康が怖れた男とはいかなる人物であったのか。

ココからネタバレ

直江兼続の生涯を描く

ちなみに本作の主役は直江兼続。誰?って言う人向けに説明すると上杉謙信の次の上杉家当主景勝の側近で、当時の上杉家では景勝に次ぐナンバー2だった武将。「愛」の前立てをつけた兜がトレードマーク。って書けば『花の慶次』(原作は隆慶一郎の『一夢庵風流記』)を読んだことがある人は判るんじゃないかと思う。

前田利家だったり、山内一豊だったりと、2000年代に入ってから、比較的地味ーな武将にスポットが当たる傾向が強かった大河ドラマではあるが、なんと陪臣が主人公とは。「風林火山」の山本勘助もまあ、陪臣って言えば陪臣だけど、あれは武田家内部での話も多いし、物語のスケール的に地域戦で済んでいたから良かったけど、今回は全国レベルのスケールの話だ。ずいぶん思い切ったなと当時は思ったものである。

いろいろ残念な内容

で、小説の『天地人』に話は戻す。正直かなり厳しい。なんというか、登場人物の台詞が現代人的でとにかく軽々しいのである。とにかく兼続万歳で、主人公補正も凄い。兼続が出てくれば何でも解決してしまう。

ライトノベル並に改行が多いこと。こだわりの強調表現が無駄に多いのも気になる。これが火坂雅志作品の特徴なのだろうか。これら文体や表現上の特徴を百万歩譲って許すとしても、登場人物に微塵も魅力が感じられないのはしんどい。

天才・上杉謙信。とか書いてそれっきりだし。作家なら天才の天才たる部分をその筆で感じさせなくては駄目だろう。歴史上の天才武将として人々がイメージしている上杉謙信像に頼り切って、作中での描写の努力を完全に放棄している。謙信に限らず、とにかく登場人物の誰もが哀しいまでに薄っぺらい。初動の存命中の謙信の描写でコケているので、謙信の「義」を受け継いだとする兼続の行動にまったく説得力が生まれてこないのだ。

本作では兼続の青年期から老年期まで、半世紀近くの歳月を描いている。しかし戦国末期~江戸初期。日本史上もっともゴージャスなイベントが起こりまくっていた時代を描くには全編800頁弱でもあまりに短か過ぎた。重要な歴史的事件が瞬く間に通り過ぎていく虚しさよ。ダイジェスト版を読まされているかのような気分だった。上杉家に関係が薄い出来事の描写が触れる程度で終わるのは致し方ないにしても、「御館の乱」が瞬間で終わったときには唖然とした。

直江兼続モノならこれを読め!

ちなみに直江兼続モノとしては藤沢周平の『密謀』がやはり、これまで読んだ中ではベストか。文章の格がまるで違うのは当然として、物語の中心を関ヶ原の前後に絞っているから、内容が薄くならず、だれることもなく緊張感が最後まで続いているのも◎なのである。

他に兼続が出てくる話としては山田風太郎の『叛旗兵』を推したい。

先ほどあげた隆慶一郎『一夢庵風流記』も名作保証。

史実から激しく逸脱した伝奇小説の類だけど、『天地人』とは較べるのも失礼なくらいのハイクオリティなので未読の人は是非挑戦していただきたい。

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