こるものさんのデビュー作
2008年刊行。第37回メフィスト賞受賞作品。汀(みぎわ)こるものの第一作にして、タナトスシリーズの一作目でもある。
twitterやってる人間としては、汀こるものと言うよりは、「こるものさん」で認識しているので、フルネームで書くとちょっと新鮮。
講談社文庫版は2013年に登場している。
注意点として、ウィリアム・ゴールディング作『蠅の王』のネタバレが思いっきりされているので、気を付けておきたい。ネタバレするならするで、せめて最初に書いておいて欲しいところである。
あらすじ
美樹と真樹は双子の兄弟。兄の美樹は行く先々で死体に遭遇する死に取り憑かれた男。そして弟の真樹は数々の難事件を解決してきた高校生名探偵として知られていた。彼らが行くところに事件と死体あり。ミステリ作家大倉阿鈴の招きにより訪れた小笠原の孤島では、またしてもトラブルが待ちかまえていた。双子が導き出した、思いも寄らぬ事件の解とは……。
死神(タナトス)と呼ばれた男
社会派の天才高校生探偵の真樹と、その双子の兄死神ニート美樹。そして彼らのお守りを任された不運な刑事高槻を主軸として展開する本格ミステリ。孤島モノ。双子は共に(当たり前か)美少年設定。美樹は行く先々で死体に遭遇する奇癖を持っており、持ち前の美貌と相まってネットでは人気沸騰中。「タナトスきゅん」としてその筋では超有名人となっている。
古典的なクローズドサークルかと思いきや
島には招待者の大倉阿鈴の他に彼のミステリ作家仲間が数名滞在中している。嵐がやってきて島から出られなくなると事件が発生。当然のことながらお約束に忠実に電話は通じず、ネットはつながっているもののパソコンを犯人に破壊されてしまい外部への連絡は出来ない。事態を把握するや、ミステリ作家たちはオタク精神丸出して、名探偵を気取り推理に耽溺し始める。とまあ、ここまではオーソドックスな孤島モノの定石をきちんと踏まえてみせる。
本格ミステリの作法を軽やかに投げ捨てる
この作品が評価されたのはこの先だ。密室とかアリバイとかそんなのどうでもいいから♪動機?そんなのどうでもいいじゃん♪とばかりに由緒正しき正統なる本格ミステリの作法を軽やかに投げ捨てているところだろう。ここまであっけらかんと開き直られると清々しい。この話を本来の本格の作法で解決したら、単なる平凡な話で終わってしまうからなあ。こんな一発芸は何度も通じないとは思うのだが、いかにも「メフィスト賞らしい」作品ではあると思う。
前後のメフィスト賞受賞作はこちら