光原百合の第二作
2001年刊行作品。作者の光原百合(みつはらゆり)は1964年生まれ。本職は尾道市立大学芸術文化学部日本文学科の教授職である。
研究者として活躍しながらも、長期にわたり執筆活動を継続している。デビュー作は1989年の詩集『道』。その後絵本や翻訳、エッセイ等の作品も数冊出している。守備範囲が広すぎる!
ミステリ作品の執筆は当時から行っていたようで、光文社の「本格推理」に吉野桜子(本作の主人公の名前である)で作品が掲載されている。
ミステリ作品の単著、第一作は1998年の『時計を忘れて森へいこう』 。こちらは2006年に刊行された文庫版だけど、インパクトの強いカバー絵なので覚えておられる方も多いのではないだろうか。
本作はそれに続く二作目のミステリ作品となる。文庫書き下ろし。
表紙イラストはマンガ家の野間美由紀が担当していて、こちらも非常に目を引くデザインになっている。
2010年代に入ってからミステリ系作品の単著での刊行は無し。最近はアンソロジーなどへの寄稿が多いようだ。
※2022/8/29追記
2022年8月24日に亡くなられたとのこと。まだ58歳なのに。。早すぎる。
『遠い約束』の感想に、Twitterでコメントをつけていただけたことがとても励みになっています。謹んでご冥福をお祈りいたします。
ありがとうございます! 自分でも懐かしい作品です。 https://t.co/xS4axuwb4S
— 光原百合 (@mitsuharayuri) April 2, 2020
あらすじ
吉野桜子はこの春、晴れて浪速大学に合格。念願のミステリ研究会への入会を果たした。彼女を待ちかまえていたのは一癖も二癖もありそうな個性的な三人の先輩たち。同好の士たちとのミステリ談義を日々満喫する彼女だったが、唯一の心残りは今は亡き大叔父との幼い日の約束。大叔父が残した謎めいた遺言に隠された真の意味とは……。
ミステリへの愛を感じる連作短編集
ミステリ愛好家の女の子が大学のミス研に入会。重度のミスオタの三人の先輩と共に数々の謎を解き明かしていく連作短編集。この時期の東京創元社作品らしい、ささやかな日常の謎系なお話。テーマも消えた指輪の探索や、季節外れの暑中見舞いの謎だったりとライトテイスト。中心となるのは死んだ大叔父の遺言をめぐる暗号解読で、これはちょっといい話でしんみりさせられてしまう。
全編を通じて、ミステリへの愛が溢れていて、擦れた読み手としては少々気恥ずかしくなるが、それもまた微笑ましい。作者としては自分の学生時代へのオマージュ的な意味合いが多分に込められているように読める。作家として一度は書いておきたかった作品なんだろうなと推定。派手さは無いが、静かに心に残っていく良作なのであった。