第一回日本ファンタジーノベル大賞は力作揃い
1989年刊行作品。第一回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作品である。
作者の山口泉(やまぐちいずみ)は1955年生まれ。多くの作家が、日本ファンタジーノベル大賞をきっかけとしてデビューしているが、山口泉は本作以前にすでに作家デビュー果たしている。最初の作品は1984年の『吹雪の星の子どもたち』。
短命に終わることが多い、ファンタジーノベル大賞系の作家だが、山口泉はコンスタントに新作の発表を続けており、息の長い作家となっている。キャリア三十年超えは立派。最新作は2018年の『重力の帝国』である。
ちなみにこの年の大賞受賞作はあまりに有名な酒見賢一の『後宮小説』。ちょっと(というかかなり)相手が悪かった。
第一回ファンタジーノベル大賞は、一回目ということもあり力作揃いであった。選外となった以下の「候補作」三作もすべて書籍刊行化されている。
岡崎弘明 『月のしずく100%ジュース』
岩本隆雄『星虫 COSMIC BEETLE』
武良竜彦『三日月銀次郎が行くイーハトーボの冒険編』
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
日本ファンタジーノベル大賞、最初期の作品に興味がある方。宮沢賢治がお好きな方。ちょっと変わったファンタジー世界に触れてみたい方。30年前の山口泉がどんな作品を書いていたのか興味がある方におススメ。
あらすじ
惑星参(カラスキ)、北風共和国の町<<冬の森>>に巡回劇団がやってきた。地元出身の天才子役ベラーコの凱旋公演だ。しかし貧しいステーロは周囲からの迫害を受け学校を追われてしまう。ステーロの不在のまま、上演されるミュージカル『宇宙のみなもとの滝』だったが、その終幕を迎える部分で思わぬアクシデントが発生する。
ここからネタバレ
宮沢賢治テイスト?
おとぎ話のようなエスエフ的設定で展開される宮沢賢治テイストの物語。戯曲が入っているからどことなく「ポラーノの広場」風の印象を受ける。
作中に充満する作者の思想があまりに前に出すぎていて、合わない人には辛いかも。「俺の考え聞いて聞いて」感が非常に強いのである。
読み手としては、まず物語ありきでストーリーで楽しませて欲しかった。ラストの主人公の行動もいささか突然過ぎて説得力に欠けるのも残念。コンセプトはとても良いと思うのだけど。