「西の善き魔女」シリーズの五作目
1999年に中央公論社版C★NOVELSファンタジア版が登場。これが一番最初の版。
シリーズ第五巻。ノベルズ版ではこれが本編の最終巻である。当時はこの第五巻に続いて外伝が三冊刊行された。
2002年に刊行された愛蔵版では第3巻にこのエピソードは収録されている。
そして、2005年に登場した中公文庫版では刊行順が変更されており、第6巻のエピソードが「闇の左手」になっている。中公文庫版ではノベルス版の外伝「金の糸紡げば」を第5巻としているのだ。作中の時系列に合わせた配慮だろうか?
その後2014年に角川文庫版が出るのだが、こちらではノベルス版時代の刊行順に戻されている。ちょっとわかりにくいね。
あらすじ
東の帝国ブリギオンの南方からの侵攻。思いもよらぬ事態に竜騎士ユーシスは驚愕する。このグラール存亡の危機にかけつけたのは意外な人物だった。一方、本国のハイラグリオンでは大僧正メニエールが王位簒奪の野望を企てていた。これほどまでの事態に至っても女王コンスタンスは人々の前に姿を現さない。業を煮やしたフィリエルは遂に女王宮の奥深くに単身乗り込んでいく。
フィリエルの魅力が際立つ
東の大国は攻めてくるわ、大僧正が王位を狙い始めるわ、これまで出ても来なかった女王コンスタンスがやっと登場してくるわで盛りだくさんの、ジェットコースター的展開が堪能できる第五巻。もう少し枚数をかけた方が良かったような気もするけど、それなりに伏線は引いてあったのでこれはこれでアリかな。
このシリーズでは明確な悪人というものが存在しない(小物のリイズ公爵なんてのは居たけど)。女王にしてもレアンドラやアデイルにしてもそれぞれの立場の違いや、主義主張があって、ある程度私情は捨てて高貴なもの故の義務を果たそうとしている。そんな中でまるで空気を読まずに私情混じりに状況を引っかき回すフィリエルの存在感が他を圧倒している。個人的にはあまり好きじゃないキャラクターだけど、とても魅力的な存在であることは明らか。何が何でも想いを遂げようとする彼女の強い意志は西魔女の最大のウリなのだと思う。
残された謎は外伝で!
お話的にはいちおう円満解決?隠者って何なのかしらって疑問は残るけど、どうやらこの話、外伝三冊も読まないと全ての謎は明かされないらしいので、それは後の楽しみにしておこう。主要キャラクターが誰も死ななかったのでホッとした。いい人フラグが立ち過ぎていたユーシスの身を密かに案じていたのだった。外伝ではアデイルとくっついて欲しいけど、そんな話はあるのだろうかな。