ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『義元謀殺』鈴木英治のデビュー作は希少な今川視点の戦国モノ

本ページはプロモーションが含まれています


角川春樹小説賞の特別賞受賞作品

第一回角川春樹小説賞の特別賞受賞作品。2000年刊行作品。

義元謀殺〈上〉 (角川時代小説倶楽部) 義元謀殺〈下〉 (角川時代小説倶楽部)

著者の鈴木英治(すずきえいじ)は1960年生まれ。早々と二回目で休止状態になってしまっている角川春樹小説賞出身というのは、作家業の振り出しとしてはどうなんだろう。少々気の毒な気もする。と、当時は思ったものの、その後は時代小説の書き手として、作品を量産している。Wikipediaで見てみると、この作品量は凄いね。

鈴木英治 - Wikipedia

ハルキ文庫版は2001年に登場。

2010年には新装文庫版が登場している。現在読むならこちらかな。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

時代小説作家、鈴木英治の原点とも言える作品を読んでみたい方。戦国時代が好きな方。特に今川家をメインに据えた物語を読んでみたい方。『義元謀殺』というタイトルに惹かれるものを感じる方におススメ。

あらすじ

天下に最も近い男。駿遠三の太守、今川義元を暗殺せよ。織田家の武将、簗田弥次右衛門の密命を受けた忍者、山路甚平は一党を率いて駿府へと乗り込む。今川家家臣を襲う凄惨な皆殺し劇。しかしそれは義元謀殺に向けての遠大な計画の序章に過ぎなかった。家中きっての遣い手、多賀宗十郎は周到に張り巡らされた陰謀の真相を見抜くことが出来るのだろうか。

ここからネタバレ

希少な今川視点の戦国モノ

戦国時代を描いた作品は数多くあれど、今川視点の物語は珍しい。日本史上屈指の有名人織田信長の引き立て役に甘んじてしまった史実もあり、文弱、やる気無し、公家大名とイメージ散々な今川家。それでもこれほどの大名家なのだから、骨のある武将が当然居てもいい筈。というわけで登場するのが主人公の多賀宗十郎。剣の達人で、領民思いで、女にもモテモテ。腐敗臭漂う家中にあって、孤軍奮闘するその姿が格好良い。

読み手に仕掛けた周到な罠

それにしても、今川義元って桶狭間の合戦で討ち死にするわけだから、そもそも謀殺ってどういうことなのよ、なんていう疑問が読み手には当然浮かんでくると思うのだが、徐々に明らかにされていく恐ろしく手の込んだ謀略の数々には驚かされること必至だ。時代小説でありながら、ミステリ的な楽しみ方も出来る。幾重にも張り巡らされた罠を全て切り抜け、義元を守り抜いたかに見えた主人公。しかし全ては義元を桶狭間へ誘い込むための壮大な陥穽であったと知れた時の心地よさが格別。

マイナス点としては、あまりに計画が複雑過ぎて、普通に考えたら成功確率がほとんど無さそうなこと。催眠術の存在も都合良すぎ。加兵衛の正体はバレバレなんだけど、爽やかナイスガイなのでこれは許す。宗十郎との対決シーンが最後に用意されていなかったのは返す返すも残念。

ともあれ、800頁超の長さを感じさせない、エンタメ性の高い作品に仕上がっていることは間違いの無いところなので、デビュー作としては十分過ぎる出来。現在の活躍もむべなるかなというところか。

戦国時代を描いた小説ならこちらも!