ネコショカ

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『汝ふたたび故郷へ帰れず』は飯嶋和一の希少な現代モノ作品集


飯嶋和一の貴重な現代小説集

2000年刊行。河出書房新社主催の第25回文藝賞受賞作である表題作に加え、講談社主催の第40回小説現代新人賞を受賞した『プロミスト・ランド』他、1編を収録した作品集。

汝ふたたび故郷へ帰れず リバイバル版

汝ふたたび故郷へ帰れず リバイバル版

 

 極めて寡作でありながら骨太に男の生き様を描き、豊穣なる物語を紡ぎ上げることに関しては他の追随を許さない飯嶋和一(大好きなので、手放し誉めちゃう!)。現在では歴史小説の書き手として知られているこの作家だが、作家活動の初期には現代を舞台とした小説も書いていた。本作は、貴重な現代モノの作品集と言うことになる。

2003年に小学館文庫から文庫版も刊行されている。

汝ふたたび故郷へ帰れず (小学館文庫)

汝ふたたび故郷へ帰れず (小学館文庫)

 

あらすじ

新田駿一は将来を嘱望されたミドル級ボクサーだった。しかしアルコールで体を壊しボクシングに見切りをつけた駿一は負け犬のようにこっそりと故郷の島を訪れる。時の流れを経ていてもいまなお島の人々の心は暖かく駿一の精神は徐々に癒されていく。そんな日々の中、ある訃報がもたらされる。

飯嶋作品の「熱さ」はこのころから健在

よくあるボクサー復活モノだとあなどるなかれ。飯嶋和一テイストのボクシング小説がタダで済むはずがない。熱くならないわけがないのである。

自分ではなかなか気付くことはないのだけれども、多くの人々の想いはつながっている。不甲斐なく引退を決めた主人公に「共に闘えて光栄でした」とメモを残したジムの会長。死ぬまで主人公の活躍をスクラップし続けた島の彦兄ィ。疎まれながらも応援を続けた地元の人々。そりゃもうお頂戴涙コンテンツ盛り沢山であざといなんて言われてしまうかもしれない。

でもそんなことはどうでもいいと思える程人々のディティールが書き込まれていて確かな存在感を感じさせるのだ。周囲の人々の想いを受け止め成長していく主人公は、再起戦に向けストイックに自らを砥ぎ澄ましていく。ここでは主人公と共に読者のテンションもガンガンあがっていくだよなー。

そして決戦の日。歴史小説でもそうだけど、どんな作品ジャンルの作品でも、入念に取材をして書いてるんだと思うこの作者ならではの力の入りようで、素人が読んでも激戦の光景がありありと浮かんでくる迫真の描写。アドレナリン出まくりである。

残りの二編もおすすめ!

それから短編があと二編収録されている。「スピリチュアル・ペイン」は飯嶋版『鉄道員(ぽっぽや)』とも言える老鉄道屋の最後の赴任地での物語。「プロミストランド」は禁止された熊撃ちに己の存在意義を燃やす男の物語。いずれもお薦め。

ここしばらく、歴史小説しか書いていない飯嶋和一だけど、いつかまた現代モノも読んでみたいなと思わせる作品群だった。

飯嶋作品はどれもおすすめ(新作読んでないけど!)

ちなみにこちらが飯嶋和一のその他の既刊一覧。四半世紀の作家生活の中で、なんと7作(汝ふたたび故郷へ帰れずを入れても8冊)しかないのである。ホントに作品数の少ない作家なのである。

『雷電本紀』(1994.06)⇒江戸時代の大力士、雷電の一代記。
『神無き月十番目の夜』(1997.06)⇒江戸時代初期、山間の村で起きた大惨事の顛末(実はこれが一番やるせなくて好き)。
『始祖鳥記』(2000.01)⇒江戸時代に空を飛んだ男!「鳥人」幸吉の物語
『黄金旅風』(2004.03)⇒寛永年間の長崎が舞台。朱印船貿易の終焉を描く。
『出星前夜』(2008.08)⇒天草の乱のお話。
『狗賓童子の島』(2015.01)⇒大塩平八郎の乱関係者のお話。未読
『星夜航行』(2018.06)⇒秀吉の朝鮮出兵時代のお話。未読

 

飯嶋作品の共通要素として、有名どころの人物を取り上げることは稀で、歴史の中に埋もれていた人物を掘り起こして、丹念に磨いて光を当てていくのが基本スタイル。敗れしものたち、弾圧された人々、志しを得られずそれでも奮闘するものたちの姿を実に丹念に描いている。

 

『狗賓童子の島』以降は恥ずかしながら未読。買って積んであるけど、小説読めない病に罹患してしまったので、ずっとそのままになっているのだ。お正月あたりに再挑戦してみようかな。