真下みことのデビュー作
2020年刊行作品。第61回メフィスト賞受賞作。作者の真下(ました)みことは1997年生まれの女性作家。講談社BOOK倶楽部掲載のプロフィールによると、現役の大学生(2020年2月時点)とのこと。
講談社文庫版は2021年に刊行されている。単行本から二年も経たずに文庫化とは、ちょっと早いね。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
地下アイドル好きの方、かつてファンであった方、アイドル社会の厳しさを知りたい方、ネット社会の闇の部分に触れてみたい方、気持ちよく騙されてみたい方におススメ。
あらすじ
売れない地下アイドルグループ「となりの☆SiSTERs」で、センターを務める青山柚莉愛(ゆりあ)は、生動画の配信中に血を吐いて倒れる。しかしそれは、新曲プロモーションのためのドッキリ企画だった。ファンの心配は、裏切られた怒りに変わり、柚莉愛のTwitterアカウントは炎上。無責任に拡散されていく騒動の果てに柚莉愛が見たものは……。
地下アイドルって?
そもそもご存じない方もいると思うので、簡単に言うと、地下アイドルとはライブ活動を中心に活動するアイドルで、メディアへの露出をほとんどしない(例外もたくさんあるが)存在である。
ちょっとしたプロ並みの売れっ子もいれば、バイトを掛け持ちしながら、赤貧状態の中でなんとか頑張っている子も居たりして、一口に地下アイドルと言っても千差万別。多様化、階層化が進んでいる。
会社の同僚や、学生時代の友人で地下アイドルに入れ込んでいる人間を数人知っている。彼らはライブに足繁く通い、地方遠征には付いていき、グッズは必ず買い、チェキへの投資も惜しまない。たぶん、クルマ一台買えるくらい年間でかけている奴もいるはずである。
ふつうの芸能人と違って、地下アイドルはファンとの距離の近さが魅力である。ファンの絶対数も少なく、ライブに行けば会える(グッズ買わなきゃだけど)。それだけ彼女たちにはファンを惹きつける吸引力があるのだろう。
※地下アイドルについて、もっと知りたい方はニコニコ大百科の解説記事や、Wikipedia先生の記事をチェックしてみていただきたい。
ココからネタバレ
二人の視点から描かれる物語
前置きが長くなったが、本題に入ろう。
本作は、地下アイドルの青山柚莉愛と、彼女のファンであると思われるアカウント名「@TOKUMEI」、この二人の視点が交互に展開されていく。
アイドルとして伸び悩み、嫌々ながらにやらされた起死回生のドッキリネタが思いっきり滑り、窮地に立たされる柚莉愛。そしてSNS世論を巧みに操作して柚莉愛を追い詰めていく「@TOKUMEI」。
柚莉愛サイドのストーリーでは、アイドル業界の底辺部分がどれだけ過酷で、残酷なものであるかをまざまざと思い知らされた。「大人の作ったものを自分が作ったように見せてるだけ」。地下アイドルの彼女たちは、承認欲求と引き換えに、大人たちの思惑に乗らざるを得ない。
そしてごく一部の脚光を浴びる成功者の陰には、数知れぬ敗残者がいる。身心をボロボロにして頑張っても結果が出ない。努力が必ずしも報われない世界。大人の都合に搾取される少女たちの姿がけっこうキツイ。
一方で、「@TOKUMEI」サイドのストーリーではネット社会の闇が描かれる。「@TOKUMEI」はネットリテラシーの高い人物として描かれる。Twitterでは複数のアカウントを使いこなし、Togetterでまとめを作る作業も余裕でこなす。RTやいいねを縦横に駆使して、無名の地下アイドル柚莉愛のやらかしを、Twitterのトレンドに載るほどの炎上騒ぎにまで焚きつけていくのである。
「@TOKUMEI」の正体は?
カバーのコピー文などから、本作は内容的に叙述トリック系であることは、なんとなく想像がつく。
叙述トリックにもさまざま種類があるが、「@TOKUMEI」というネーミングから、この人物が、作中に登場している既知の人物なのではという疑念が浮かんでくる。食べても太らない、貧相な体。ニヤニヤ動画の部分。涙の跡を拭うとボロボロと落ちる白い何か。
と、比較的、ヒントはしっかり提示されているので、登場人物がそれほど多くないこともあり、だいたい予想がついてしまう読み手も多いのではないだろうか。
ただ、いまひとつ、読み切れなかったのが「@TOKUMEI」と岩崎の関係である。青山柚莉愛の拉致監禁は、岩崎の単独犯ではなく、「@TOKUMEI」の依頼とまでは云わないまでも、なんらかの意図を汲んで実行されたように思える。二回目の「飴ちゃん」は岩崎への犯行依頼であったように読めるのだが、一回目は何だったのだろう。もう一回読んでみたらわかるかな?
おまけ:講談社謹製のまとめサイト風紹介ページ(けっこう凝ってる)