新書編 に続いて、マンガ編。こちらも2019年に出たマンガではなく、「2019年に読んだマンガ」が対象なので、その前提で。マンガに関してはアンテナ感度が鈍く、レイトマジョリティなので、既視感あるランキングかもだけど、その点はご容赦を!
長編作品ならではの心に残る中間巻部門
まずは長編作品の単巻で、ぐっと心に残った三冊。優れた長編作品には、こういった「神巻」が存在するもの。
原作版 左ききのエレン(14)
『左ききのエレン』は昨年のベストとしても紹介した。昨年キレイに完結したと思っていたら、しっかり第二部が始まっていたのでビックリ。
いつの間にかドラマ化もされていて、更にビックリ。見逃してしまった。
本作のサブタイトルは「天才になれなかった全ての人へ」。圧倒的な物語の熱量が読者をグイグイ惹きつけてやまない一作。
凡人なら凡人なりに、替えの効く量産型有能社畜として生きていく。第一部で、自分なりの生き方をようやく探し当てた主人公、朝倉光一の「その後」が描かれる。「天才でないことは戦わない理由にはならない」一巻の頃のヘタレぶりから考えると見違えるような成長ぶりで感涙を禁じ得ない。
ちなみに「原作版」とあるように、並行してnifuniによる「リメイク版」の連載が「少年ジャンプ+」で進行中。こちらは補完エピソード多めなので併読をお勧めしたい。
アクタージュ(6)
言わずと知れた「週刊少年ジャンプ」連載作品。「週刊少年ジャンプ」で演劇モノ、更に女性が主人公と異色づくめの設定ながら大成功を収めている作品。
第6巻はヒロイン夜凪景(よなぎけい)が宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の舞台劇に挑戦するエピソード。わたしは、その昔舞台演劇を見るのが大好きで、『銀河鉄道の夜』の舞台化も何作か見てきた。それだけに『銀河鉄道の夜』を使うだけでもう反則。これはもう泣くしかないじゃん。
所属事務所の社長である母親のゴリ押しで、役を得てきた星アキラが、天才たちとの圧倒的な実力差に怯みながらも、バイプレーヤーとしての覚醒を遂げていくシーンも地味に熱くて燃える展開なのである。
進撃の巨人(30)
こちらも説明不要。遂に全世界で累計1億部を突破したバケモノ作品である。わたしにしては珍しく、「マガポケ」での毎月の配信を有料購入してまで、発売日の0時直後に読んでいる作品。
遂にエレンの狙いが明らかになり、物語も大詰め。長かったこの作品もとうとう最終局面を迎えようとしている
世界の敵となること選んだエレンだが、まだ隠された意図がありそうな気がする。アニはどうなるんだろう。伏線回収の鬼、諫山創がどんな結末を用意しているのか?楽しみでならない。2020年中に完結かな?
学園マンガ部門
続いて学園マンガ編からは二作をチョイス。
私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!
久しぶりに読んだら見事にハマった系の作品(←いまさら)。連載初期と、現在とで作品のテイストがまったく変わってしまっていて衝撃を受けた。
最新刊は16巻だけど、ここは転換期となった8巻を挙げておく。
1巻~7巻までは非モテのコミュ障で陰キャ、筋金入りのオタクである智子の鬱々とした毎日を自虐混じりに受け止める作品。しかし8巻の修学旅行編からは、周囲に受容され智子を取り巻く友情の輪が広がっていく、微百合的交流を愛でる作品になっているのである。
ぼっちでなくなった智子だが、ふとした瞬間にかつての孤独な自分を思い出すことがある。取り巻く状況は変わっても、智子の本質が変っているわけでは無い。環境の変化に戸惑う智子の内面の描写がなんとも言えず好き。

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 8巻 (デジタル版ガンガンコミックスONLINE)
- 作者:谷川ニコ
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2015/08/22
- メディア: Kindle版
スキップとローファー
「月刊アフターヌーン」での連載作品。
深刻な過疎化に悩む故郷のために、わたしは東大に入って官僚になる! 能登半島の片田舎から、単身上京してきた、ちょっとずれてる女の子がいろいろ頑張る話。
人当たりのいいイケメンだけどなんだかワケアリっぽい男子。親切を装ってマウントかけてくる女子。帰国子女のクールな美女。陰キャの文化系地味女子。ヒロイン岩倉美津未(いわくらみつみ)のちょっとずれてるけどひたむきな性格が、本来であれば繋がらない人と人の縁を結んでいく。メチャいい話で、なんだか心が暖まる。
都会での同世代間コミュニケーションに慣れていない美津未は、自意識過剰なちょっと「痛い子」で、一つ間違えればいじめのターゲットなんかにもなりかねないキャラクター。連載当初は、ダークな展開も覚悟していたのだけど、予想外に優しい展開で嬉しい誤算とも言える作品。
歴史マンガ部門
歴史系コミックからはこちらの二作をチョイス。
うたえ!エーリンナ
Twitterアカウント「ツイ4」と、星海社ウェブサイト「最前線」に連載されていた4コママンガを書籍化。かなり珍しい、古代ギリシアの女子校を舞台とした作品である。
女詩人サッポーが主宰する私塾に通う、詩人になることを夢見る女の子エーリンナの物語。女性の権利が制限されていた時代に、天然気味だけど、古い因習に捉われないで、自分の「好き」に邁進していくヒロインの天真爛漫な魅力が眩しい。仄かな百合感も良いアクセント。終盤のタイトル回収はお見事。この展開には震えが来たよ。
古代ギリシアというとレアな時代を取り扱っているが、相当丁寧に下調べをした上でこの作品は描かれており、歴史愛好家的にも高い評価を受けている模様。
乙女戦争
2019年に、全12巻で遂に完結を迎えた。15世紀のボヘミア地方で起きた「フス戦争」の顛末を扱った作品である。大西巷一の代表作になったね。
両親を惨殺された少女シャールカが、キリスト教の異端フス派による宗教戦争に巻き込まれていく。襲い来る敵は神聖ローマ皇帝率いる対フス派十字軍十余万の大軍勢。銃を取って戦うことを選んだシャールカ。天才軍略家ヤン・ジシュカの策謀。
残虐描写や、戦場での性暴力についても容赦なく描いていくため読み手を選ぶ作品ではあるが、戦記物として、少女の成長物語として、2019年を代表する一作になったと思う。
SFマンガ部門
SF系からはこちらの二作。
少女終末旅行
ウェブコミックサイト「くらげバンチ」に連載されていた作品。2018年に完結。
人類の黄昏、終末の世界を描いた作品。科学文明が滅亡し、残されたインフラで細々と暮らしていた人類もほとんどが死に絶えた世界。チトとユーリの二人は、崩壊した都市の最上層をめざし旅していく。
今年読んで面白かったマンガ、一作しか挙げちゃ駄目!ってことだったら間違いなく『少女終末旅行』になる。
この世界では動物や、植物すら見当たらず、人類はもはや食料を自給する能力すら失っているのではないかとと思われる。残り少ない食料と燃料を求めて廃墟を彷徨う二人。
無機質だが暖かみのある世界観。世界にただ二人残された少女の絶妙な関係性。そして種としての終焉を迎えつつある人類。含みを持たせたラストも、わたし好みの幕の引き方。
ちなみに『少女終末旅行』はアニメ版が存在する。原作の四巻相当分までの内容だが、ほぼ完璧な映像化なので、是非とも併せてみて頂きたい。原作の空気感をここまで見事に再現できるとは!残り二巻分のエピソードもアニメ化して欲しいのだけど、さすがに厳しいだろうか。
彼方のアストラ
集英社のウェブコミック配信サイト「少年ジャンプ+」での連載作品。全四巻で完結。
2016年から2017年末にかけての連載だったが、その年のマンガ系各賞で上位にランクイン。2018年にブレイク。2019年にはアニメ化もされた(わたし的には未だ見てない)。
惑星キャンプの目的で集められた9人の少年少女が宇宙を漂流。しかもメンバーの中には裏切り者がいるらしい。SFサバイバルモノ+犯人捜しのミステリ要素がバランスよく加味された作品。全五巻でキレイに完結している。
『無限のリヴァイアス』みたいな過酷な展開になるのかと思ったらそうはならず、どちらかというと『十五少年漂流記』とか『銀河漂流バイファム』(例えが古い)みたいな、いろいろあるけどみんなで団結して頑張ろう!的な、王道展開を遂げていく。
懐かしの再読部門
最後の二作品は、懐かしの名作編。改めて再読してみたらやっぱり名作だった!というカテゴリの作品である。
からくりサーカス
「週刊少年サンデー」に1997年から2006年まで。9年間も連載されていた作品。藤田和日郎の代表作である。単行本はなんと43巻にもなる大長編。
泣き虫でただ守られるだけの立場であった主人公、才賀勝(さいがまさる)が、さまざまな試練を乗り越えて、一人の男として成長していく物語。勝を支える、可憐な少女しろがね(エレオノール)と、熱血漢の拳法使い加藤鳴海(かとうなるみ)、この三人を軸として物語は展開していく。
数百年に及ぶもつれにもつれた因果の糸。先人たちが積み重ねてきた恩讐の果てに、勝が最後に見たものは?広げまくった大風呂敷が、終盤キレイにするすると伏線回収されていく手際の鮮やかさはさすがの藤田和日郎。ラスト数巻はほぼ全話クライマックスで泣きっぱなしなのであった。
ちなみにアニメ版はこの長大な作品を僅か3クールで消化するという偉業?を成し遂げている。取捨選択されたエピソードも多いのだが、それでも数々の名場面がアニメで動いて堪能できる喜びは格別である。
すくらっぷ・ブック
最後はこちら。今回取り上げた中では最も古い。1980年から1982年にかけて「少年チャンピオン」に連載されていた作品。2016年に逝去した、小山田いくの実質的なデビュー作。長野県小諸市の中学生たちを主人公とした青春群像劇である。
主人公、柏木晴(晴ボン)と、その仲間たちを中心に、中学二年の春から中学三年の春まで、一年間の出来事を叙情豊かに描いた作品。情緒という言葉は晴ボンから学んだ。
メインの六人の心象風景、さまざまな試練と成長を暖かみのある筆致で描く。数多いサブキャラたち全てにも相応のエピソードが用意されており、群像劇としても秀逸な仕上がりとなっている。デビュー作でこの完成度はスゴイ。今でも多くのファンがついていることもうなづける名作と言える。
オリジナルの秋田書店版は絶版となっており、電子書籍レーベル「エンペラーズコミックス」による電子版での再読。紙の書籍では収録されていなかったオリジナル読み切り(2009年の『夢のありか』)が入っており、ファンなら買いかと思われる。
おわりに
以上、全10作。いまさら感のある作品も多いが、良いものはいつ読んでも良い!といいうことで、改めてご紹介させて頂いた。皆さんの、好きな作品も是非教えてください!
「2019年に読んで面白かった」シリーズは、最後の「小説編」は年内には書ききれないと思われるので、年明け一周目くらいに発表出来る予定。しばしお待ちを。