ネコショカ

Blog名変えました。ネコショカは「猫の書架」
雑食系の書評Blogです。なんでも読みます
基本ネタバレありなので注意してね。

思考から文字の概念が失われたら?古川日出男の『アビシニアン』を読む


今週のお題「2019年の抱負」、古川日出男作品のレビューを書く!

というか、小説の類をこの10年程、読んでいないので、未読の古川作品がメチャたくさんあるのだ。まずは、この未読の山をなんとかしていかないとね。

本日ご紹介するのは、古川日出男の最初期の作品である。

『沈黙』と併せて読みたい一作

2000年刊行。書き下ろし。古川日出男の四作目。

アビシニアン

前作である『沈黙』に少しだけ言及されていて、その後作中でのフォローが無かったアビシニアン少女についての物語。

2003年に登場した文庫版では『沈黙/アビシニアン』として合本化されている。一緒に読んだ方が良い作品なので、このセット化は自然な流れだろう。

沈黙/アビシニアン (角川文庫)

沈黙/アビシニアン (角川文庫)

 

あらすじ

中学を卒業した時、少女は自らの過去を捨て去った。両親の記憶、そして自らの名前すらも。遠い日に生き別れていたアビシニアンとの再会を経て、少女の新しい人生が始まる。人としての生を放棄し、文字を識別する能力さえも失い、都市の中の聖域でアビシニアンと過ごす日々。変容する認識。人としての新生。そして運命の出会いは訪れる。

精神から「文字」が失われる過程を描く

本作は三つの章から構成されている。第一章では学校生活にとけ込めず、中学卒業と共に家を出た主人公は、かつての飼い猫アビシニアンと再会する。この猫は引っ越しをきっかけに主人公の両親が保健所送りにしてしまっていたのだが、『沈黙』のヒロイン薫子が保健所を襲撃して救出し野に放たれていたもの。

猫好きとしてはアビシニアンとの再会シーンにほんのり感動。その後、主人公は猫と共にホームレス生活を始める。いかにも古川作品と言いたくなるような予想外の滑り出しにまず、意表を突かれる。人間との交渉を避け、猫の目線で生きる間に彼女の精神から"文字"が失われ、後天的な文盲状態に陥る。

内なる衝動を文字として綴る男

第二章は、もう一人の主人公シバの視点に切り替わる。原因不明の偏頭痛に悩む彼は、自らの内部にある衝動を文字として書き綴ることで精神の平衡を得ようとしている。大学進学をきっかけに上京した彼が、とある飲食店で一章の少女に出会い、恋に落ちるまでのお話。少女は、エンマと名付けられ、再び人としての生活を始めていた。

刹那の瞬間にしか存在しないもの

そして最終章は再び少女エンマの視点に戻る。アビシニアンとの別れの後、いかにして現在の生活に落ち着いたのか、そしてシバとの出会いが描かれる。次第に惹かれ合う二人の魂。文字が形骸化し、ことばが物語を紡ぐ。摂りこまれた物語は記憶に溶け、そして物語はいのちを持ち、無限の力を持つ。根底に流れる発想は『沈黙』に近いかな。形として残すことが出来ない、刹那の瞬間にしか存在しない音楽と言葉は存在的に似ている。

エンタメ小説というよりは、もはやブンガクの領域なのではないかと。何度か読まないと、しっかり消化出来ないと思う。これ。きちんと読み込めた自信がまるでない。要再読。

アビシニアン

アビシニアン

 

なお、前作(と言っていいのか微妙だが)の『沈黙』の感想はこちらからどうぞ。

www.nununi.site