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『ワインズバーグ、オハイオ』シャーウッド・アンダーソン いびつな者たちの群像劇


シャーウッド・アンダーソンの代表作

『ワインズバーグ、オハイオ』は、1919年にアメリカ人作家シャーウッド・アンダーソン(Sherwood Anderson)によって書かれた連作短編集である。原題は『Winesburg, Ohio』。

日本国内では戦前より邦訳が出ており、まずは1933年に山屋三郎訳 の『ワインズバーグ物語』が登場。これはのちに角川文庫版となる。

1959年には橋本福夫訳による新潮文庫版が刊行。

1979年には小島信夫、浜本武雄訳 による講談社世界文学全集版(後に、講談社学芸文庫)が出ている。

本日ご紹介する上岡伸雄訳版は2018年の最新訳だ。新潮文庫の名作新訳コレクション(Stars Classics)の一冊として登場している。このレーベルでは往年の名作を、読みやすい新訳で再刊する試みを続けており、とてもありがたい。

ワインズバーグ、オハイオ (新潮文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

19世紀のアメリカを舞台とした文学作品を読んでみたい方。連作短編形式の作品がお好きな方。一筋縄ではいかない、個性豊かな人々が登場する小説作品を読んでみたい方。シャーウッド・アンダーソンに興味を持っている方におススメ。

あらすじ

19世紀後半。アメリカオハイオ州の田舎町ワインズバーグ。実りのない人生を終えようとしている女。信仰に囚われた男。戻らぬ男を待つ女。肉欲から逃れられず懊悩する男。そして生まれ故郷を捨て、都会に出ようとしている青年。周囲の発展から取り残され、静かに衰退していく町で暮らす人々の姿を綴る、22編の連作短編集。

ここからネタバレ

ジョージ・ウィラードを軸とする連作短編

『ワインズバーグ、オハイオ』には22編の短編(掌編といってもいいくらいだ)作品が収録されている。短いものなら数ページ。長いものでも60ページ程度。それぞれの作品はオハイオ州の架空の町、ワインズバーグの住人たちの生活を描いたもので、それぞれのエピソードはゆるやかにリンクしている。

各編を貫く大きな物語があるわけではないが、比較的登場回数が多く、作品の軸となっている人物に、ジョージ・ウィラードがいる。ジョージは18歳で、ワインズバーグで新聞記者をしている。町のホテル経営者の息子だが、いずれは作家になりたい野心を持っている。寂れつつある町を出ていこうとする前向きで希望に溢れたジョージと、生活に疲れ、田舎町で生涯を終えていこうとする人々との対比が、まず一つ目の注目ポイントと言える。

いびつな者たちの書

冒頭に登場する一編「いびつな者たちの書」は、少々不思議な話である。老作家と、彼の家を訪れた大工のやりとりだけで進行する物語だ。老作家は夢の中で「いびつな者」たちの姿を垣間見る。彼らの中には美しいものもいたが、おかしな姿をしているものもいたし、形が崩れていたりするものもいる。

「いびつな者」たちは老作家の心に強い印象を残し、彼はそれを小説として書き残すことにする。想像するに、最初に提示される「いびつな者たちの書」は、『ワインズバーグ、オハイオ』全体を全体を定義するような作品となっているのだろう。

いびつな者に自分を重ねる

『ワインズバーグ、オハイオ』では、いわゆる普通の「愛すべき市井の人々」は登場しない。本作の登場人物の多くは、極度な頑固者であったり、問題行動を起こす人物であったりと、奇人変人に属する類の「いびつな者」ばかりだ。

実生活であればこうした「いびつな者」たちとは、あまり関わりたくはないだろう。一見すると、わたしたちのようは一般人からは縁遠い人々に見えてしまう。

しかし彼らが起こす問題行動の根底には、失敗してしまった過去への悔恨、断ち切れない性への衝動、自分を認めてくれない周囲への不満、ままならぬ人生への憤りのようなものがこめられている。これらは誰もが心当たりのあるような、普遍的な悩みだろう。

『ワインズバーグ、オハイオ』で、人生に失敗した人々として登場する「いびつな者」たちは、わたしたちひとりひとりの、負の想念を具象化したものなのだ。

とかく人生はままならない。失われた可能性。あり得たかもしれない自分。叶えられなかった願い。そんな自身の悔恨を振り返ってみると、別世界のように見えるワインズバーグの人々の心情も、すんなりと理解できるのではないだろうか。

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