伊坂幸太郎のデビュー作
2000年刊行作品。いまを時めく伊坂幸太郎(いさかこうたろう)の第一作である。第五回新潮ミステリー倶楽部賞の受賞作品。懐かしのミステリ叢書、新潮ミステリー倶楽部からの刊行であった。
新潮ミステリー倶楽部賞は、日本推理サスペンス大賞の後継だが、短命に終わり、この第五回が最後となっている(その後はホラーサスペンス大賞になった)。結果的に見ると、伊坂幸太郎を世に出したことが最大の功績と言えるだろう。
新潮文庫版は2003年に登場。現在この作品を読むならこちらになるだろう。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
伊坂幸太郎はデビュー作ではどんなお話を書いていたのか気になる方。長編だけど、サクサク読めるミステリ作品を探している方。ちょっと不思議な感覚のミステリを読んでみたいと思っている方におススメ。
あらすじ
仕事を辞めコンビニ強盗にも失敗。逃走中の伊藤は目が覚めると、自分が見知らぬ島にいる知る。宮城県牝鹿半島の沖合南に存在するという荻島は、かつて支倉常長によって開かれ幕末以降外界との接触を一切断ったまま現在に至っているのだという。未来の全てを予見する物を言うカカシ「優午」の存在に衝撃を受ける伊藤。奇人変人が集う島での奇妙な生活が始まった。
ココからネタバレ
なんとも不思議なお話
とにかく変な話。未来を全て知ることが出来るカカシ優午。しかし彼はなにものかによって"殺されて"しまう。何故彼は自らの死を知りながらそれを防ごうとしなかったのか。そして島のシンボルを殺害したのは誰なのか、というのが物語の基本軸。
通常ではありえない状況設定なので、独自のルールに基づく特殊環境ミステリをやりたかったのか。とても不思議な味わいの作品だ。とらえどころの無い主人公。ちょっとずれてる日々野君。存在感の薄いヒロイン(なのか?)。常に嘘しかつかない画家。唯一外界との行き来を許されている男。島内の法の執行者として殺人を許された男。奇行キャラ盛りだくさんで、伊坂作品といえば実に「らしい」作品ではあると思う。
デビュー作ではありながら、相変わらず文章は判りやすくリーダビリティは高い。500頁近いボリュームだがすらすら読めてしまう。伊坂作品らしい独自の倫理観も既に健在でファンなら素直に入っていけるのではないかと思う。リアリティとは無縁の内容だけど、奇妙な魅力に溢れた作品に仕上がっている。
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