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『錬金術師の消失』紺野天龍 錬金術×ミステリの第二弾!

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「錬金術」シリーズ二作目

2020年刊行作品。『錬金術師の密室』の続篇が早くも登場である。ライトノベル系の作家は筆が早いね。紺野天龍(こんのてんりゅう)としては四作目。

傍若無人な錬金術師テレサ・パラケルススと、彼女に振り回されるエミリア・シュヴァルツデルフィーネ君が活躍するシリーズの第二弾だ。

錬金術師の消失 (ハヤカワ文庫JA)

表紙イラストは桑島黎音が担当。

というか、テレサの顔変わってない?前作(下のイラスト参照)では釣り目の性格悪そうなタッチだったのに(そこが良かった)、ふつうのかわいい系の絵柄になっている。売れたから、もうすこし幅広い層に訴求できるタッチに変えて来たのだろうか。

錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

ワガママなヒロインに振り回されたい方。『鋼の錬金術師』のような、錬金術師モノが好きな方。豪快なトリックのミステリ作品を読みたい方。特殊設定系のミステリが好きな方におススメ!

あらすじ

水銀塔。そこは神の子ヘルメス・トリスメギストスが建造し、始まりの錬金術師アルベルトゥス・マグヌスが住みついたセフィラ教会の聖地である。錬金術、第五の神秘《エーテル》物質化についての手がかりがそこにある?現地に派遣された、テレサとエミリアのコンビは、そこでまたしても奇妙な犯罪に遭遇する。塔を訪れた人々が次々と殺害されていく。果たして真相は何処にあるのか。

ココからネタバレ(前作のネタバレも含む)

世界観についておさらい

まずは、前作でも登場したこの世界における、錬金術の「神秘」について確認しておこう。

第零神秘:《無》の取得
第一神秘:《神》の観測
第二神秘:《大いなる一》の解明
第三神秘:《賢者の石》の錬成 二ビルの石 完全実態
第四神秘:《魂》の解明
第五神秘:《エーテル》物質化
第六神秘:元素変換

第六の元素変換は錬金術師なら誰でも出来る行為。物質を元素レベルで変換してしまう能力。第五の《エーテル》物質化は、前作登場のフェルディナント三世が到達。彼は、他の錬金術師に先駆けて、第四神秘の《魂》の解明にまで到達しているとされる。

フェルディナント三世は、現在逃亡中。虎の子の《エーテル》物質化の技術を失ったアスタルト王国は、少しでもその手がかりを掴もうと、水銀塔に主人公ペアを送り込んだというのが物語の導入部である。

水銀で出来た塔が舞台

本シリーズは錬金術が存在する前提で書かれたミステリ作品である。錬金術師は元素レベルでの物質を変化させてしまうことが出来る。形状変化も自由自在。そのため一般人には到底不可能な犯罪行為が可能となってしまう。

今回、物語の舞台となるのは全体が水銀で構成された水銀塔である。作り上げたのは、始まりの錬金術師とされるアルベルトゥス・マグヌス。水銀は常温で液体の形状を取る金属物質なので、本来は構造物の素材には使えない。まさに錬金術ならではの建造物と言えるだろう。

円筒状の構造を持つこの塔は、三重構造で、外側から回廊、居住区、吹き抜けとなっている。各部屋に扉は無く、所定の操作をすることで水銀壁が自動で開く仕掛けだ。プライベートルームはその部屋の人間にしか出入りすることが出来ない。

物理トリック好きにはたまらない展開

水銀塔を訪れた人々が次々と、首なし死体で発見される。彼らはどうして殺されたのか。そして犯人は誰なのか。

水銀塔は中央の吹き抜け部分の床が回転することが判明している。ミステリ読み的には大掛かりな物理トリックの存在が予見できてしまい、読んでいてテンションが上がる!物理トリック好きには事件の真相を考えるのが楽しい作品と言えるだろう。

この物語では、テレサ以外にもうひとりの錬金術師、バアル帝国の二コラ・フラメルが登場する。事件の解決は、二コラ編、テレサ編、二つの解釈が提示され、非常に凝った展開となっている。贅沢な造りだよね。

水銀塔の回転が、犯罪に関与していることまでは想像できても、まさか上下動までするとは予想を超えていた!という読者の方も多いのではないだろうか。三重構造の水銀塔内部が上下に移動する。更にその構造が、錬金術師ならではの利用法にまで及んでいる。最終的に物語世界の構造すらもひっくり返す展開に繋がっていくのが面白い。

錬金術のある世界ならではあの犯行動機

第二章の後半で、二コラが登場人物たちの名前について考察を巡らすシーンがある。各キャラクターのフルネームと、名前に込められた意味は以下の通り。

ソフィア・アシュトン司教:ソフィア=神の叡智
アルフレッド・クラーク:クラーク=聖職者
エリザ・フォルモント:フォルモント=満月
カトリーナ・ホーソーン:ホーソーン=サンザシ
サラ・グランド:グランド=大地
イザベラ・ピルグリム:ピルグリム=巡礼者
スタンリー・ウェイマス:スタンリー=岩の多い草原
ジェイラス・サンスコット:サンスコット=太陽
レオン・ウィンディ:ウィンディ=風
ジェーン・スミス:正体不明

最近の推理小説では、メイン以外のキャラクターなんてモブなんだから、変に難しい名前を付けるよりも、読む側に分かりやすい名前を付けた方が親切!といった作品が存在する。今村昌弘の『屍人荘の殺人』とか『魔眼の匣の殺人』あたりがそう。

よって、この作品でもキャラクターの名前を憶えやすくするための、読者への配慮なのかと思っていたのだ。ところが、作者はそんなことはとうにお見通しで、更にその上を行く真相を用意していた。これはなかなかに痺れる。錬金術が存在する世界ならではの犯行動機に繋がっていくのだからスゴイ。

テレサがポンコツかわいい

前作『錬金術師の密室』では存在だけは仄めかされていた、士官学校時代のテレサの同級生アナスタシアが、バアル帝国の中尉シャルロッティ・アイゼナッハとして登場。恋敵の出現で、嫉妬に燃えるテレサがポンコツかわいい。この手の作品の王道とは言え、主人公はモテモテですな。

実は錬金術師ではないテレサと、実は錬金術師であるエミリア。重要な秘密を共有しあった二人が、次第に絆を深めていく展開が良い。

「エミリア、やれ」

このテレサの台詞に込められた信頼と、即座にそれに応えるエミリアの行動は、本作のクライマックスシーンである。いいねえこういうのは。

敵側勢力も登場し、更に謎は深まる。ミステリ作品としても面白いし、テレサとエミリアの敵討ち話としても楽しめる。いい感じに盛り上がってきたので、次回作以降も期待大なのである。

錬金術師の消失 (ハヤカワ文庫JA)

錬金術師の消失 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:紺野 天龍
  • 発売日: 2020/12/17
  • メディア: 文庫
 

前作『錬金術師の密室』の感想はこちらからどうぞ

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