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『天帝妖狐』乙一、文庫版が全くの別作品に!

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乙一、二作目の作品

1998年刊行作品。『夏と花火と私の死体』に続く乙一の第二作となる。JUMP j BOOKSからの登場。「A MASKED BALL」はジャンノベルVol-12(1997/5/4号)、「天帝妖狐」はジャンノベルVol-13(1997/9/15号)にそれぞれ掲載されていた作品である。

天帝妖狐 (JUMP jBOOKS)

天帝妖狐 (JUMP jBOOKS)

 

JUMP j BOOKSレーベルは、本質的にはノベライズやファンタジー系の作品がメインなのではと思われるのだが、乙一のような作風は持て余し気味というか、マッチしていないというか、扱いに困っていたような印象がある。表紙のデザインもイマイチ感たっぷりで、JUMP j BOOKS時代は、乙一の特性をレーベル側が受け止めきれていなかったのではとわたし的には考えている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

最初期の乙一作品を読んでみたい方。乙一の黒い方が好きな方。ダークでちょっと怖い不思議なお話を読みたい方におススメ。

ノベルス版だけ読んでいる。文庫版だけ読んでいる。という方はそれぞれ別の版と読み比べてみるのがおススメ。

あらすじ

少年の日、垂早苗という少女と交わした約束によって夜木一太郎の躰は外傷を受けるたびに人ならざるものへと変貌していく。少しずつ自らの躰を異形のものに蝕まれていく主人公の姿を描いた表題作に加え、学校のトイレに書かれてた落書きが巻き起こす異常な騒動の顛末を描いた「A MASKED BALL」を収録。

以下、作品ごとにコメントしていこう。

ココからネタバレ

A MASKED BALL

最初に収録されている「A MASKED BALL」はトイレの落書きが引き起こすひと騒動。ラストのひねりに乙一らしさが垣間見える一品だけど、ちょっとネタ的に物足りないかな。学校のトイレってことでホラー?と思わせておいて実はミステリ、でも最後にはという持って行き方は面白いけど、いかんせんキャラも弱くて破壊力に欠ける。

天帝妖狐

続いて表題作「天帝妖狐」。語り口に『夏と花火と私の死体』に似た雰囲気を感じるのは語り手が尋常ならざる存在であるからだろうか。ストーリーそのものは特に秀逸とは思えないのだが、存在しえないものによって綴られる物語は不思議に現実から乖離していて、このいつの時代とも知れない奇妙な作品世界にとても良くあっている。

しかしながら、レーベルの性質上仕方無いとはいえ、作品のエッセンスをまるで汲み取れていないスペシャルクライマックスコミックとやらは無い方がましなのではないかと。

文庫版は全くの別物に

集英社文庫版は2001年刊行。

結局、乙一のJUMP j BOOKS時代は、二作目の『天帝妖狐』までで終わり、三作目の『石ノ目』からは一般レーベル(ノベルス形態)に発表の場を移すことになる。2000年からは角川スニーカー文庫から『失踪HOLIDAY』も刊行され、乙一の注目度は高まっていく。

JUMP j BOOKS時代の乙一の既刊も、文庫化に際してはライトノベルレーベルである、スーパーファンタジー文庫や、スーパーダッシュ文庫ではなく、一般向けレーベルの集英社文庫から刊行された。

天帝妖狐 (集英社文庫)

で、読んでみてメチャメチャびっくり。構成から登場人物からクライマックスまで、とにかく何から何まで、完全に別の作品になっているのである。

主人公の病状は最初から深刻だし、早苗の正体は謎のままだし、アパートの面々も様変わりしているし……。よほど乙一はJUMP j BOOKS版に不満があったのだろうか。もちろん物語の骨子の部分は変わっていないのだが、杏子とのところてんのエピソードがあっさり無くなっていて実に残念。骨川君も好きだったのだが……。

文庫化に際して、多少のリライトが入ることは、よくあることとは言え、ここまで別モノになってしまうのは珍しい。今となっては、JUMP j BOOKS版は希少価値が出てきているのではないだろうか。

天帝妖狐 (集英社文庫)

天帝妖狐 (集英社文庫)

 

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