『Twelve Y.O.』の続篇
1999年刊行作品。第2回大藪春彦賞、第18回日本冒険小説協会大賞日本軍大賞、第53回日本推理作家協会賞長篇を受賞。「このミス」2000年版でも国内三位にランクイン。福井晴敏(ふくいはるとし)の出世作と言ってよいだろう。
デビュー作にして乱歩賞受賞作の『Twelve Y.O.』の続編なので出来ればこちらを読んでからの方が話が分かりやすい。前作キャラも少しだけ出番があるので知っていると嬉しい。
講談社文庫版は2002年刊行。文庫化に際して上下巻に分冊化されている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
自衛隊が登場するミステリ作品を読みたい方。骨太で大長編の社会派ミステリを堪能したい方。最近すっかりガンダムの人だけど、昔の福井晴敏がどんな作品を書いていたのか気になる方などにおススメ!
あらすじ
海上自衛隊のミサイル護衛艦いそかぜでは不可解な事故が相次いでいた。乗組員の中に工作員が潜入している。その事実は幹部たちを震撼させる。米軍基地での未曾有の大惨事。北朝鮮に奪われた秘密兵器。最新鋭の装備を満載したハイテク艦が国家間紛争の舞台となったとき、安穏と平和を甘受してきた日本政府は厳しい決断を迫られることになる。
ココからネタバレ
圧巻の大長編
600頁で二段組み(単行本の場合)。登場人物一覧が別紙で入っている。これが30人以上も居たりする。最初の100頁くらいはストーリー進行もゆっくりとしていてなかなかペースに乗れなかった。大長編だけに序盤はキャラクターの紹介と、自衛艦という特殊な舞台を説明することに枚数をかけたのだろう。
第三章からシフトチェンジ
テンポがガラリと変わるのは第三章。読者にこれまで信じ込ませてきた前提を綺麗にひっくり返して見せて、そこから豪快なシフトアップ。これまでのスローペースは何だったのと言いたくなるようなたたみかけるような急展開。相変わらず表現の青臭さが鼻につくんだけど、これはもう福井晴敏の作風と解するしかないのかもしれない。
父と子、自衛隊、日本とアメリカ、人間としての生き甲斐とは等々、物語の軸が複数あって、その全てを丹念にケアしてきっちり書き切っているところが素晴らしい。これが二作目だが、全作よりも着実に上手くなっている。
映画版は真田広之主演
映画版は2005年に上映。監督は阪本順治(さかもとじゅんじ)。仙石恒史役を真田広之。宮津弘隆役を寺尾聰。如月行役は勝地涼が演じている。
宮津弘隆は原作の小説版では艦長だったが、映画版では副長に変更されている。この辺は、自衛隊側からの申し入れがあったもよう。現役の艦長が国家に対して反逆を企てるというのは、映画への協力をするにあたって許容できなかったのであろう。
協力を拒否していた防衛庁(当時)に対して、再考を促したのが当時の防衛長官だった石破茂だったというのは、なかなかに興味深い。
詳細はWikipedia先生のこちらの章を参照のこと。
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