ネコショカ

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いにしえのPC98ユーザ感涙『青猫の街』涼元悠一


1998年刊行作品。作者の涼元 悠一は1969年生まれ。1992年の集英社コバルト文庫『あいつはダンディ・ライオン』がデビュー作。本作で第十回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞している。ちなみに大賞は山之口洋の『オルガニスト』である。

その後はゲームの世界に進み、ビジュアルアーツ、アクアプラスなどでシナリオを担当していた模様。

青猫の街

手に取ってまず驚かされるのが左開きの装丁である。この作品はなぜか文章が全て横書きで書かれているのだ。その昔、小峰元の『クレオパトラの黒い溜息』で同じような取り組みがあったが、これはなかなかに珍しい。パソコン上でテキストを読む感覚を表現したかったのだろうか。

ちなみに文庫化はされていない。ファンタジーノベル大賞は、時々こういう単行本だけの作品が出てくるよね。

あらすじ

神野の学生時代からの友人Aが失踪した。あれだけ雑然としていた彼の部屋にはただ一台のパソコン(PC9801-VM2)が残されていただけだった。インターネットを通じてAの消息を調べようとした神野だったが、「AONEKO」と称される謎の存在がその背後に見え隠れする。ネットを彷徨し、幾多の暗号を解読、地下BBSに接触し、真相に肉薄する神野だったがやがて現実的な危機がその身に訪れる。

懐かしきPC9801の時代

普通ノスタルジーなんてものを感じるには二十年とか三十年といった歳月が必要なわけだけど、ドッグイヤーと呼ばれるパソコンの世界、特にネット界では一年前でも一昔。二十年も前なら既に遥かなる古代の世界である。なにせVMだよVM!古のPC98ユーザーにとっては忘れてはならないマシンだ。パソコン通信(インターネットじゃないよ)だって既に死語に等しい昨今の情勢からしてみれば、草の根BBSなんて用語もいまや歴史上の言葉だよね。

懐かし系オールドPCについての昔語りやら、もうすっかり忘れていた草の根BBSへのアクセスシーン、まだかろうじて幼年期といえなくもなかったインターネット描写などなど、黎明期からのPCユーザーのノスタルジーのツボを的確に突いてきており、あまりの楽しさ一気読みしてしまったのだった。

これはファンタジーなのか?

しかし、ちょっと待て、大多数を占めると思われるフツウの人々にとってこのネタは99%理解不能なのではないか?一般人を激しく置き去りにして疾走していくその様はある意味で痛快ではあるのだが、さすがにやりすぎなのではないか、なんて疑問も湧いてくる。

が、これもまたファンタジーの一つのあり方なのかもしれないと気が付いて、改めて本作はファンタジーノベル大賞の応募作であったことを思い出す。なるほどこういう手もあるわけか。けど、審査員の顔ぶれを見ていると本気でファンタジーだと信じている可能性も捨てきれない。この賞の懐の深さを実感できる一作と言えるだろう。

青猫の街

青猫の街