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『オルガニスト』山之口洋 第10回日本ファンタジーノベル大賞受賞作

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山之口洋のデビュー作

1998年刊行作品。第10回日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作品である。ちなみにこの年の優秀賞は沢村凛の『ヤンのいた島』涼元悠一の『青猫の街』である。

作者の山之口洋(やまのぐちよう)は1960年生まれ。本作がデビュー作となるが、2001年に上梓した『われはフランソワ』は直木賞の候補にまでなっている。

ファンタジーノベル大賞受賞時はサラリーマンとの二束の草鞋であったが、その後独立し専業(&フリーのIT技術者)となっている。ただ、ここ数年は新作が出ておらず、少々心配。

オルガニスト

と、思っていたら、昨年、10年振りの新作となる『SIP 超知能警察』が刊行されていた。ビックリ。こちらは近未来を舞台とした、AIが活躍する警察小説みたい。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

パイプオルガンのビジュアルが好き!響きが好き!とにかく好き!という方。オルガン奏者という存在に興味がある方。音楽をテーマとしたファンタジー作品を読んでみたい方。日本ファンタジーノベル大賞系の作品に惹かれる方におススメ。

あらすじ

将来を嘱望されながら事故で半身の自由を奪われた天才オルガニスト、ヨーゼフ・エルンスト。九年の歳月を経てブエノスアイレスに現れた謎のオルガニストの正体は彼が奇跡の復活を遂げた姿なのか。しかしその卓越した才能を楽壇の長老ラインベルガー教授は頑なに認めようとしない。謎を解く鍵はバッハのとある曲にあるようなのだが……

ここからネタバレ

パイプオルガンへの愛を感じる

音楽ミステリであるという段階で既に点が甘くなってしまうのだが、パイプオルガンについての蘊蓄はまず文句なしに面白い。建築物と一体化しており、移動させることが出来ないパイプオルガンは常に必ず一点モノなわけで、演奏方法も音色もオルガン毎に全て異なる。ここいらへんは作者の愛がひしひしと伝わってくる。

人物描写にもう少し厚みが欲しい

充実したパイプオルガンの描写に比して弱いのが人物の書き込み。自ら招いた事故で親友であるヨーゼフを半身麻痺に追い込んでしまった主人公。しかし苦悩とか葛藤がストレートに伝わってこない。復帰に賭けるヨーゼフの執念も並大抵のものではないのだが、描写が全般的に薄くて盛り上がらない。しっかり書き込んであればラストのカタストロフィ場面はさぞや美しかっただろうと感じるだけに惜しい。

文庫版は全面改稿されている

ちなみに、2001年に発売された文庫版は大幅な改稿が施されている。単行本版では人称が三人称なのだが、文庫版はなんと一人称で書かれているのだ。ここまで来ると全面改稿と言ってよいだろう(大筋はもちろん変わらないが)。表紙デザインがなんだか怖いのだが、それでも是非手に取って欲しい一作である。

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