今週のお題「読書の秋」本日はこちら。
稲生平太郎名義の初小説作品
もともとは1990年に書肆風の薔薇のロサ・ミスティカ叢書から出ていた作品。
その後、2002年にスニーカー文庫のスニーカー・ミステリ倶楽部枠で再刊された。イラストは緒方剛志。
作者の稲生平太郎(いのうへいたろう)は1954年生まれの英文学者。本名、横山茂雄(よこやましげお)で、現在は奈良女子大学大学院の名誉教授。
幻想文学、オカルト方面に造詣の深い評論家で、当時、唯一書いた小説ということで、一部方面では伝説の名作だったらしい。その後1992年に『何かが空を飛んでいる』、2006年に『アムネジア』が出ているので、本作が唯一の小説作品というわけでは無くなっている。
ちなみに2002年NHK-FMの「青春アドベンチャー」枠でラジオドラマ化されている模様。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
稲生平太郎(横山茂雄)の小説作品を読んでみたい方。オカルトガジェットに満ち満ちた幻想的な青春小説を読んでみたい方。地方都市を舞台とした物語がお好きな方。今は亡き、スニーカー文庫のスニーカー・ミステリ倶楽部に興味がある方におススメ。
あらすじ
高校生広田義夫は悪友の高橋の誘いに乗り、公園の野外劇場で<カメラ・オブスキュラ>を体験する。そこで二人はありえないものを見てしまう。水族館の地下へと続く階段、それは白昼夢だったのか。こっくりさんの啓示を受け<霊界ラジオ>にのめり込んでいく高橋は、次第に現実の世界から乖離していく。水族館には果たして何があるのか。
ここからネタバレ
妖しげなガジェットてんこ盛りがそそる
狂気に蝕まれていく親友。古くから続く一族。戦前に猖獗を極めた新興宗教とその教祖。チベットの地底に隠された秘密。少女たちの連続失踪事件。そして水族館に閉じこめられている「なにか」。該博な知識を誇る作者だけに、ホラーやオカルトのガジェットがふんだんに作中に盛り込まれていて、そっち方面が好きな人間ならニヤリとすること請け合い。これは読んでいてワクワクした。
地方都市の空気感がいい
古い城下町で暮らす高校生たちの一年間の物語としても秀逸で、地方都市の春夏秋冬が叙情性豊かに描かれていて、恩田陸の『六番目の小夜子』や菊地秀行の『インベーダーサマー』、新城カズマの『サマー/タイム/トラベラー』に少し近い読後感かな。切なくも狂おしく、電波ゆんゆん気味にダークに閉じていく幕の引き方は賛否が分かれるところかもしれないけど自分的には、この結末で大正解。全ての謎が解かれず終わるのも正しい選択だったと思う。そろそろ再読してみようかな。