『爆弾』の続篇が登場
2024年刊行作品。呉勝浩(ごかつひろ)の14作目。
2023年版の「このミステリーがすごい」、「ミステリが読みたい」でいずれも1位を獲得した『爆弾』の続篇である。
ミステリ系ランキングの結果はこんな感じ。『爆弾』に比べるとランキング的にはやや後退したがそれでも堂々たる結果である。
- 週刊文春ミステリーベスト10:第5位
- このミステリーがすごい!:第7位
- ミステリが読みたい!:第14位
- 本格ミステリ・ベスト10:第23位
シリーズ一作目『爆弾』の感想はこちらから。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
前作でスズキタゴサクの魅力にハマってしまった方。変人VS変人の頭脳戦に憧れる方。劇場型犯罪を取り扱ったミステリ作品がお好きな方。魅力的な刑事が多数登場する警察小説が好き!と言う方におススメ!
なお、間違っても本作から先に読まないように!あくまでも前作『爆弾』を読んでから『法廷占拠 爆弾2』は読みましょう。
あらすじ
東京地裁104号法廷。死者98名、重軽傷者500名を超えた未曾有の連続爆破犯、スズキタゴサクの裁判が始まった。しかしその法廷はスズキに父親を殺害された、柴咲奏多らによって占拠される。裁判官や傍聴人たちを人質にとった柴咲は、全国に収監された死刑囚たちの即時処刑を要求し立てこもりを続ける。柴咲の狙いはどこにあるのか?そして不気味な動きを見せるスズキの真意は?
ここからネタバレ
登場人物一覧
今回も登場するキャラクターを最初に確認しておこう。
- 高東柊作(たかとうしゅうさく):警視庁捜査一課特殊犯捜査第一係長。現地での指揮を執り、立てこもり犯柴咲との交渉役となる
- 類家(るいけ):捜査一課所属。前回の事件でスズキタゴサクの取り調べにあたる。今回は高東の下で事件解決に挑む
- 倖田沙良(こうださら):警察官。野方署庶務課勤務。弁護側の証人として出廷
- 猫屋(ねこや):特殊犯係所属。高東の部下
- 立花勘太(たちばなかんた):警視庁捜査一課強行犯係班長
- 甲斐(かい):警視庁捜査一課特殊犯捜査第二係所属
- 浅利玲央(あさりれお):警視庁捜査一課特殊犯捜査第二係所属
- 伊勢勇気(いせゆうき):野方署の刑事
- 矢吹泰斗(やぶきたいと):警視庁捜査支援分析センター(SSBC)所属。元野方署所属
- 猿橋(さるはし):杉並署の刑事
- 柴咲奏多(しばさきかなた):法廷占拠犯。父親をスズキタゴサクに殺害されている
- 新井啓一(あらいけいいち):柴咲の共犯者
- 湯村(ゆむら):スズキタゴサクに家族を殺された男。傍聴人のひとり
- スズキタゴサク:連続爆破事件の犯人。被告として出廷
今回は立てこもり犯とのバトル
前作『爆弾』では、連続爆弾魔でありながら事件の序盤で警察に拘束されたスズキタゴサクと、警視庁捜査一課の刑事たちとの取調室での息詰まる頭脳戦が展開された。一方、今回の『法廷占拠』では、法廷を占拠した柴咲奏多と、警視庁捜査一課の高東柊作、そして類家刑事との交渉戦が描かれる。
柴咲奏多は周到な準備のうえで今回の犯罪を実行した。二十歳そこそこの若さでありながら、君、人生何週目??という程の狡猾さと交渉術、場を支配する力、驚嘆すべき胆力。柴咲は百戦錬磨の捜査一課の猛者たちを翻弄し手玉に取る。
『爆弾』でもその要素はあったが、今回はさらに劇場型犯罪の要素が強まっている。柴咲と警察側との交渉は、すべてリアルタイムで動画配信され全世界に実況中継される。柴咲が要求する無理難題に、高東たちは瞬時に回答し、少しでも適切な選択を示さなければならない。警察が交渉に失敗したときには、即座に人質となっている傍聴人たちに危害が加えられる。警察側としては最悪の状況と言っていい。前作のスズキタゴサクの取り調べ担当者清宮輝次も相当に気の毒な境遇だったが、今回の高東柊作の立場も、かなりキツイ。自分だったら心労で瞬時に胃に穴が開きそうだ。
警察小説としての面白さも健在
本作の魅力の一つとして警察小説としての楽しさがある。野心家であったり、事なかれ主義であったり、過去の事件のトラウマを抱えていたりと、さまざまな特徴を持った警察官たちがそれぞれの立場で事件に立ち向かう。彼らは時に足を引っ張りあい、場合によっては共闘したりもして事件解決のために奔走する。警察官である以上、人並み以上の倫理観が求められるし、事件は解決出来て当たり前、失敗すれば叩かれる。
法廷が立てこもり犯によって占拠され、多数の人質が取られ、すべての交渉経緯がネットで同時配信される異常事態。この状況をどう打開するのか。柴咲奏多にやられっぱなしだった警察サイドが、終盤に至ってようやくかみ合い始め、逆襲に転じていく展開はなかなかに胸が熱くなる。前作から続けて読んでいくと、個々のキャラクターの成長が垣間見られる点も嬉しい。
スズキタゴサクのヤバさも健在
柴咲にとっても、警察側にとっても、事態を難しくしている要素は人質の中にスズキタゴサク当人が含まれていることだ。なにを考えているかわからず、死への恐怖心がなく暴力にも耐性がある。100人近くを爆殺したスズキは、裁判がどう転んでも死刑は免れない。だからこそスズキは何を言い出すのか、何をしてくるのかまったく想像がつかない。そして、過去に例を見ないほどの凶悪犯罪を成功させたスズキは、一部のファン(ノッペリアン)たちから熱狂的な支持を得ている。
スズキにとって、柴咲らの計画は突然にもたらされた想定外の事態だったはずだ。しかし、スズキは柴咲らの意図を正確に見抜き、彼らの計画に便乗することを決める。もともと捕まるつもりで前回の事件を起こしたスズキが、どうして今度は脱走を試みようとしたのか。「まだちょっと、生きてみたくなったんです」そう言い残して去っていったスズキのその後が気になる。誰からも評価されず、尊重もされず、自分の人生を見切っていたスズキ。だが、他者からの承認を得て、彼にも欲が出てきたということなのかな?
しかし、こうなるともう確実に『爆弾3』はアリだな。高東+類家+倖田の特殊犯係新チームも結成されそう。スズキVS類家の直接対決もそろそろ実現しそうだけど、類家の危うさ、心の中の闇に、スズキはもう気が付いていそうなので、取り込まれる危険もあるかな。