「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの七作目
2020年刊行作品。木元哉多の「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズ全巻読破、ようやく最新巻に追いついた。ドラマ版が始まる前に読み終えたかったけど、さすがにちょっと無理だったかな。
木元哉多(きもとかなた)としては七作目の作品。デビュー以来このシリーズしか書いていないので、そろそろ他の作品も読んでみたい頃合いではある。
- 「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの七作目
- おススメ度、こんな方におススメ!
- あらすじ
- シリーズ二作目の長編作品
- 宮沢竜太 44歳 無職 死因・絞殺
- 閻魔堂沙羅、事件に巻き込まれる
- 閻魔堂沙羅、人生を語る
- 「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの感想はこちらから!
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
ドラマ版を見始めて沙羅ちゃんの活躍をもっと読みたい!沙羅ちゃんに説教されたい!と思う方。人間が生きていく上での「覚悟」について学びたい方。ダメ人間にでも、やり直しのチャンスはある!と信じたい方におススメ。
あらすじ
宮沢竜太は荒れていた。元ヤクザ、無職、アル中。どうしようもないダメ男であった宮沢竜太を、唯一愛してくれた妻、夏妃に余命宣告が下されたのだ。腎臓がんの末期だった。息子の志郎と、娘の汐緒里は完全に父親を見放している。酒を飲むことで現実逃避を続ける竜太に対して、夏妃は最後のドライブに連れ出して欲しいと頼むのだが……。
ここからネタバレ
シリーズ二作目の長編作品
シリーズ開始以来、「死者復活・謎解き推理ゲーム」として短編作品を上梓し続けて来た木元哉多だが、前作『閻魔堂沙羅の推理奇譚 金曜日の神隠し』から長編作品も手掛けるようになってきた。
最終的に「死者復活・謎解き推理ゲーム」に突入する仕組みは変わらないが、短編と長編とでは全く作り方が異なる。長編作品は、その尺の長さに見合ったエピソードの追加や、キャラクターの書き込み。終幕に向けて山場を作っていく工夫など、短編にはない要素が必要となってくる。
今回はどんな仕掛けを取り入れてくるのかと期待していたのだが、なんとこれまで最終的な裁定者として登場するだけであった沙羅を、事件本編にも大きく関与させる力技を使ってきた。
ただ、さすがに裁かれる側の宮沢竜太と行動を共にさせるのは不味いと思ったのだろう。本作では竜太の子ども、志郎と汐緒里側に沙羅を配置させることで物語を上手く膨らませている。何度も使える技ではないと思うが、沙羅の出番が増えるのは嬉しい。
では、いつものように内容を振り返っていこう。
宮沢竜太 44歳 無職 死因・絞殺
今回の容疑者の皆さんはこちら。
- 宮沢夏妃(みやざわなつき):竜太の妻。腎臓がんで余命三か月
- 宮沢志郎(みやざわしろう):竜太の長男。しっかりもの
- 宮沢汐緒里(みやざわしおり):竜太の長女
- 宮沢貴道(みやざわたかみち):竜太の弟
- 織江凌(おりえりょう):スーパーチェーンオリエの社長
- 織江三紗(おりえみさ):織江凌の妻。実質的な経営者
- 大森(おおもり):志郎の学校の担任教師
- 郡司朝治(ぐんじあさはる):児童相談所の職員
サブタイトルの「A+B+C」がヒント。原因とその結果を足し合わせていくと、だいたいの筋書きは見えてくるかな。もっとも、宮沢竜太の能力で正解にたどり着けたのは、若干無理があったような気もするけど。
閻魔堂沙羅、事件に巻き込まれる
本作の魅力の一つは、通常、霊界に居て事件には直接関与しない沙羅が、トラブルによって帰れなくなり、人間界で事件に巻き込まれるところだろう。
霊界人である沙羅は本来であれば、魔力のような不思議な力を行使できる。しかし、現世では「抜群に身体能力が高い一般人」程度にまでスペックが落ちてしまう。そして絶対的なルールとして人間を殺すような、重大な運命の改変には手を貸してはならないという縛りがある。何者かに命を狙われる志郎と汐緒里。沙羅としては、「ほどほど」にしか助けてあげることが出来ない。この制約がなかなか面白い。
閻魔堂沙羅、人生を語る
本作二つ目の魅力は、沙羅の目線から語られる人生の真理とでも言うべき、名言の数々だ。沙羅は外見は少女だが、悠久に近い歳月を生き、数多の人間たちの人生を裁いてきた。それだけに、より良く生きるための真理を知っているのであろう。
本作では沙羅の名言が目白押しだが、特に印象に残るのは101頁からの夏妃との会話である。
「人生を決めるのは、運ではなく、覚悟です」
「一度きりの人生で、自分は何をしたいのかを決める。それを成し遂げるために、どれだけの代償を払わなければならないのかをみきわけ、躊躇なく、妥協なく払う覚悟をする。その覚悟が運命を決めるので」
「人間は、自分が選べないことに不満を言うばかりで、逆に自分が選べることは真剣に選んでないんです」
沙羅の話を聞いていて、耳が痛くなった読者は多いはずである(わたしもそうだ)。
この覚悟が果たして、臨死体験を経た宮沢竜太に備わったのかどうか。宮沢竜太は、過去の登場人物の中でも、屈指のダメ人間であっただけに、そう簡単に、人間がやり直せるのかは疑問の残るところである。
沙羅のいい話と、宮沢竜太のダメっぷりが乖離し過ぎていて、ラストの出来過ぎの展開に納得感を少々欠いたように思える。
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