日本推理作家協会賞、受賞作品
2005年刊行作品。「KADOKAWAミステリ」2002年8月号~2003年5月号、及び「本の旅人」2003年7月号~2004年9月号にかけて連載されていた作品を加筆修正の上で単行本化したもの。掲載誌が途中で変わってしまったのは「KADOKAWAミステリ」が休刊してしまったことによるもの。書籍化に際して新章の追加と、一部の章の並び替えが行われている。
恩田作品の傾向として、凝った装幀が挙げられるが本作の単行本はその究極と言える。両面印刷の表紙、微妙に角度がずれた本文、複数フォントの使い分けと、デザイナーや担当者、そして印刷屋は死ぬ思いをしたのではなかろうか。怖ろしいまでに手のかかったデザインなのでそれだけでも手に取る価値がある。
第59回の日本推理作家協会賞の受賞作品。また、選外にはなったが、2005年上半期、第133回の直木賞候補作でもあった。
角川文庫版は2008年に登場。巻末には「ユージニアノート」が収録されている。単行本版の凝った装丁を知っているとニマニマしながら読める内容となっている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
過去に起きた事件の謎を、さかのぼって解いていくタイプのミステリ作品が好きな方。不安定感。はっきりしない感じ。五里霧中。そんな収まりの悪い状態が好きな方(いるのかな?)。複数の証言者の視点から構成される作品が好みの方におススメ。
あらすじ
それは遠い日の記憶。丸窓の家で起きた惨劇。毒物による無差別大量殺人。犯人と目される男は死に。いちおうの決着を見た事件ではあったが、未だその真実は謎に包まれたまま。あの日、あの時、あの場所でいったい何があったのか。残された人々の証言が、闇に潜む隠された真相を少しずつ明らかにしていく。真犯人は存在するのか。
ここからネタバレ
複数の証言から浮かび上がる物語の骨格
多くの謎を残したまま遺棄されてきた、とある地方都市で起きた無差別殺人事件。生存者。目撃者。刑事。事件に巻き込まれた人々の証言が少しずつその真相に光を当てていく。謎に対して直接的なアプローチを行わず、敢えて多数の視点で間接的な描写を積み重ね、逆にその真相を浮き彫りにしてみせる手法は『Q&A』で見せたやり方に近い。
様々な可能性を仄めかしながらも、一定の着地点は示してみせて、それでいて全ては語りきらないという、見せる部分と見せない部分のバランスの取り方が絶妙。読み終わっても未だ作中世界に取り残されているかのような不安定感は残るのだが、物語世界から抜け出したくない読み手に取ってはそれは嬉しい仕掛けなのかもしれない。
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