瑠璃姫VS煌姫
1989年刊行作品。この年の1月に昭和が終わっており、本作からは平成時代の刊行作品となる。ナンバリング的には「4」となっているものの、シリーズ的には六冊目。毎回書いているような気がするけど、読む順番的には1→2→アンコール→続アンコール→3→4と読んでいくのが正しいお作法。
前巻の3巻では「ジャパネスク・ファミリーご紹介」と称した、イラスト付きのキャラクター紹介が冒頭入ったのだが、あっさりそのコーナーはなくなり、今度は「これまでのお話」が入るようになった。なかなかフォーマットが整わない。
なお、表紙及び、本文中のイラストは峯村良子が描いている。<不倫編>のサブタイトルのせいか、なんとなく妖艶な雰囲気のカバーデザインである。
10年後の1999年には新装版が登場。イラストレータは後藤星(ごとうせい)に変更されている。っていうか、新装版の煌姫って金髪なのね。なんでもアリのジャパネスクとはいえ、平安の美姫とは思えない振り切ったビジュアルだな。
あらすじ
人妻となった瑠璃姫に接触を図ろうとする謎の貴公子帥の宮。それは忍び寄る不倫の誘惑なのか?一方、内大臣家の居候の立場だった煌姫はその本性を表し、かつて守弥が仕掛けた陰謀について暴露をし始める。激昂した瑠璃姫は、その晩守弥を屋敷に呼びつけるのだが、折悪しく夫の高彬がやってきて……。
ここからネタバレ
登場キャラクターを確認
本作には中編作品が二編収録されている。以下、それぞれのコメント書いていく。
本エピソードで登場するキャラクターはこちら。
- 瑠璃(るり)姫:内大臣家の姫。藤原高彬の妻
- 藤原高彬(ふじわらのたかあきら):右大臣家の四男。右近少将。瑠璃姫の夫
- 小萩:瑠璃姫付きの女房。瑠璃姫より2歳年長
- 早苗:瑠璃姫付きの女房。十六歳。帥の宮の従者から文をもらう
- 守弥(もりや):右大臣家の家司(けいし)。吉野での名前は峯男(みねお)
- 煌姫(あきひめ):先々代の帝の親王水無瀬宮(みなせのみや)の姫君
忘れえぬ夜
従者を使って瑠璃姫付きの侍女を篭絡しようとする帥の宮。その真意はどこにあるのか?そして遂に真っ向から喧嘩を売って来た煌姫。暴露される守弥の陰謀。そして守弥と二人でいるところに、夫の高彬がやってきて……。
「忘れえぬ夜」ってなんだかロマンティックなタイトル!と思わせておいて、実は夫の不在時に、別の男と会っている所に、当の旦那が帰ってきちゃったという、定番のドタバタコメディ回。こういうシチュエーションコメディ書かせると氷室冴子はやっぱり巧いよね。高彬の意外な嫉妬深さに驚かされる。今上帝(鷹男)にも当て擦られるし、奥さんが人気者だと真面目な旦那はツライ。
この回のポイントはやはり煌姫。瑠璃姫宅(内大臣家)に来てからはネコをかぶっていたけれど、遂に本性を現して正面から喧嘩を売って来た。超強気に攻めてくるので、この巻ではさすがの瑠璃姫も防戦一方。育ちと生まれはいいけれど、辛酸を嘗め尽くして来ているから、いざという時には開き直れる。生きるためならどんな手段でも講じてくる煌姫の強いキャラクターは良いよね。
謎の帥の宮
帥の宮から、縁者である煌姫を引き取りたいとの申し出が入る。厄介払いできる瑠璃姫と、貧困生活からの脱却を喜ぶ煌姫。しかし世の中はそんなには甘くない。帥の宮の真意を量りかねた二人は、共闘の道を選ぶのだが……。
引き続き煌姫のターン。4巻は実質煌姫の巻だと思う。帥の宮から声をかけられて、愛人でもいいから高貴な暮らしと取り戻したい。そう開き直る煌姫だったが、苦労を重ねてきた彼女は「うまい話には、ウラがある」ことを理解している。あっさりとこれまでの敵意を引っ込めて、瑠璃姫と手を組める割り切りの良さもこの人の魅力。
前のお話で完全に瑠璃姫の配下に収まった(笑)守弥も交えて、ここに対帥の宮戦線が構築される。帥の宮は瑠璃姫からの誘いには乗ってこない。どうやら守弥には秘策があるようなのだけど、こいつけっこう詰めが甘いポンコツだからなあ。
シリーズ的には残り四冊。今後、 陰謀編、後宮編、逆襲編、炎上編と続いていく。長らく引っ張ってきた謎の存在帥の宮。次の5巻ではようやく姿を現しそうだね 。
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